第2回 ブランド体験の場をつくる
 
富士木材株式会社 川口祐介(静岡県富士市)

No.「体験」を「感情」につなげる
 
今回の対談の会場として、オープンして3年が経つ、木と暮らしのギャラリー・ショールーム・ショップ[キト暮ラスカ(※1)]にお邪魔しました。当日は「羊毛フェルトのオーナメントをつくりましょう」という暮らし教室が開かれていました。
 
藤田 「賑やかですね。平日のイベントにもこんなにたくさんの人が集まるんですか?」
 
川口 「ええ。週末はもちろん、平日にも多くのお客様が足を運んでくれるようになって、去年ぐらいからでしょうか、『[キト暮ラスカ]のような雰囲気の家を建てたい』と、相談に来てくださるお客様がとても増えました。おかげさまで契約数も増えたので、2階に新しく打ち合わせスペースをつくったんですよ。3年続けてきて、[キト暮ラスカ]の知名度だけではなく、[フジモク]の家づくりの認知度があがってきたことを実感しています。」
 
藤田 「もともと、フジモクさんは地元の富士ひのきをはじめとした無垢材にこだわった家づくりに取り組まれていましたよね。」
 
川口 「はい。この地域でずっと仕事をやらせていただいて、みなさんに支えられて今があるわけですから、地域に根ざし、地域に貢献しながら成長してゆきたいという思いがありました。」
 
藤田 「地域に根ざした家づくりの大切さは考えていても、それを具体的な形で情報発信するにはきっかけが必要だと思います。フジモクさんの場合は、本社移転を機に、空いたスペースを利用して富士ひのきの普及や地域活性化も含めた情報を発信したいということで川口さんからお話をいただいたのが[キト暮ラスカ]の始まりでしたよね。」
 
川口 「そうでしたね。以前は、フジモクの家づくりを多くの人に知ってもらいたいと思って[移動型モデルハウス]をやっていたんですよ。ただ、モデルハウスは既に出来上がった家なので、どうしてもすぐに間取りの話になってしまう。我々はそれよりも[木の暮らし]を感じてもらうところから入ってほしいという想いが強かったんです。木の家の室内空間を見てもらって『こんな雰囲気が良いな』『こんな空間で暮らしたいな』と思ってもらった人と一緒に家づくりがしたい。木の暮らしの提案をこの場から情報発信したいと思ったんです。」
 
藤田 「ご相談いただいた当初は僕自身、ポジショニングも含めて[キト暮ラスカ]と[フジモクの家(※2)]と[富士木材]について考えた時に、ショールームでもショップでもない曖昧な場所に、果たして人が来てくれるんだろうかと思ったこともありました。でも結果的には、家づくりの提案ではなく『気持ちのいい木の暮らしを提案する情報発信の場にする』という切り口がよかったんでしょうね。」
 
川口 「実は、我々も最初は不安だったんです。スタッフからは、『大変なだけだ』とか『それよりも見学会やイベントに労力をかけて直接的な集客をしたほうがいい』なんて不満の声も聞かれましたね。」
 
藤田 「そうだったんですね。」
 
川口 「でも、単なるモデルームやショールームにはしたくなかったんです。ショールームは敷居が高いし、地域の皆さんにもっと気軽に木の空間にふれてほしい。身近に感じられる暮らしのイベントを開催して、多くのお客様に来てもらうにはどうすれば良いか? 試行錯誤の毎日でしたね。最初2年は不安でしたけど、そんな中でもとにかく『木とどう暮らしていくか』、『木の空間で暮らすとこんなに楽しいよ』と感じてもらえる場になるよう、そこだけはぶれずにやってきたんですよ。」
 
藤田 「[フジモクの家づくりを知ってもらうためにモデルハウスへ来てもらう]という以前までのやり方を一度捉え直して、[気持ちのいい木の暮らしを感じてもらうための体験の場所をつくる]という別の解釈から課題解決に導き出したわけですね。ショップやイベントで訪れた人の[体験]が、『また来たい』『気持ちいいな』というお客さんの[感情]につながったんじゃないでしょうか。」
 
川口 「そうなんですよ。[キト暮ラスカ]はまさにそれが実現できた場所なんです。以前のモデルハウスでも、木の作家さんと一緒にイベントを開催することでお客様は集まってくれたんですが、実績にはあまりつながりませんでした。でも最近は『[キト暮ラスカ]のような雰囲気の家を建てたい』と話してくれるお客様が多くて、本当に嬉しいですね。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 

No.2 ネーミングとロゴに伝わる大きな力を織り込む
 
川口 「ここまでぶれずにやってこられたのは、ネーミングの力も大きいと思っています。ネーミングがコンセプトそのものですから。当初、フィンランド語で[楽しむ]と言う意味を持つ[ハウスカ]をヒントに、[木の暮らし]をもじって[キノクラスカ]にしようかと考えていたのですが、藤田さんから[キノ]より[キト]のほうがいいのでは、という意見をいただいて。」
 
藤田 「ええ。[キノ]より[キト]の方がはっきりした意思が感じられるし、耳に残ると思ったんです。表記は、カタカナやひらがなにしてみたり、[木]や[暮]を漢字にしてみたり。活字の組み合わせで色々試した結果、最終的に[キト暮ラスカ]をご提案させていただきました。」
 
川口 「そうでしたね。ショップとしての気軽さは狙いつつ、でも名前にはやっぱりこだわりたい。最初はカッコイイ名前を付けようなんて考えていましたが(笑)、[暮らし方]と[フジモクの木]が結びついた名前になったのは嬉しかったですね。」
 
藤田 「ところが、ほとんどネーミングも決まり、いざロゴを作ろうとしたときに、川口さんから相談があったんですよね。」
 
川口 「そうなんです。実は、周りの人に『[キト暮ラスカ]と[フジモクの家]と[富士木材]がどういう関係かがわかりにくいから[フジモク]でいいじゃないの』と言われてしまって。確かに[フジモク]でも間違いではないけれど、それだと敷居が高くて人が来てくれないかもしれない。素敵な木の暮らしの提案を発信するためには、フジモクの名前を出さないでいきたかったんです。」
 
藤田 「そこから、再度ポジショニングマップをつくり直して、[キト暮ラスカ]と[フジモクの家]と[富士木材]の関係をもう一度整理したんですよね。」
 
川口 「そう、そう、そうでしたね。あの段階があったからこそ、改めて[キト暮ラスカ]というネーミングに納得することができたと思っています。」
 
藤田 「僕は、[富士木材]って言う名前がバックボーンにあることも良いことだと思っていました。[フジモクの家]は、地域の木材を使う家づくりの会社として軸がちゃんとしている。だからこそ、[キト暮ラスカ]という聞き慣れないネーミングでも成立したのだと思いますよ。」
 
川口 「聞き慣れない名前だからこそ、逆に注目されたりもするんですよ。その流れで『キト暮ラスカって言うのはね・・・』という話ができる。藤田さんがつくってくださったロゴマークも含めて、凄く気に入っています。」
 
藤田 「ありがとうございます。相談を受けた時に、自然素材の心地よさが広がるやわらかな空気感を体感できるのはいいなあと思っていたんです。すっきりして北欧らしい、あまり奇をてらわずにシンプルで。そういった空気感もロゴに表していきたいと考えました。[キト暮ラスカ]というネーミング自体が聞き慣れないので、ロゴにあまり余分な装飾を加えると違ったイメージを与えてしまうと思い、なるべくシンプルに仕上げました。細めのゴシックのロゴの上にフィンランドブルーの太目のラインを入れて、アテンションとして、真ん中にアスタリスクマークを入れました。」
 
川口 「フィンランドブルーの太目のラインとアスタリスクマーク、これがよかったですね。自分の中でもしっくりきました。」
 
藤田 「ロゴに関しては、会社やサービスを支える大黒柱のようなものですから、ロゴがきちんと決まれば社内にも理念が浸透しやすくなります。結果みんな一丸となって[キト暮ラスカ]を成功させるイメージが湧いてきたように思いますね。ロゴが生まれた経緯やロゴに対する思い、ロゴに込められたストーリーが熱いほど、対外的な印象も重厚になると思います。メッセージが[自分らしい素敵な木の暮らしができる]というストーリーとしてお客様の情緒に伝わったからこそ、理解され、信頼され、人気が出たんでしょうね。」
 
川口 「ネーミングやロゴマークや空間が出来上がったことで、だんだん自分たちの意識も変わりましたね。確かに社内にも理念が浸透してスタッフが一丸となりました。[暮らしの提案]を自分たちがしていく立場としての意識が変わってきたのかなと思いますね。」
 
藤田 「一概には言えませんが、地域工務店の中には、家づくりの技術へのこだわりが強い反面、お客様にどう訴えるかというプロモーションの部分が疎かになってしまうところがあったりするんですね。それでは工務店のマーケティングは成り立たないと思うんです。でも川口さんは、お客様の視点を常に意識されていますよね。お客様にどう伝わるのか、ということを。たとえばネーミングにこだわったように。」
 
川口 「そうですね。私にとってお客様がどう感じてくれるかっていうのは本当に大事なところです。藤田さんは、[キト暮ラスカ]に取り組む以前にもフジモクの家のパンフレットを制作してくださいましたよね。それが我々の家づくりのイメージを的確に表現してくれていたので、メッセージの部分やそれを表現するデザインは専門家の力を借りるべきだと実感していたんです。きっと今回もうまく表現してくれるだろうという期待がありました。」
 
藤田 「ネーミングとロゴマークは、最小限の情報に触れることで、人の心に最大限の力を発揮させることができるものだと思います。伝えるということは、相手の想像力を信じるということなんです。」
 
川口 「なるほど。」
 
藤田 「対象を深く掘り下げて、芯になる価値を最大限に引き出して、その魅力を的確に表現するのがデザイナーの仕事ですから。僕はデザインが正しく機能すれば、数秒とかからずに相手の心の中まで到達すると思っています。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 

No.3 アウトプットの質を高める
 
藤田 「[キト暮ラスカ]の空間が心地よいというお客様が増えて、フジモクで家を建てたいと言ってくれている。これは[フジモクの家]が構造や省エネなど長期優良住宅の基準を超える性能も担保しているという安心感も制作させていただいたパンフレットなどで、お客様に伝わっているということですね。」
 
川口 「そうですね。家づくりの話をする時に、『フジモクの家は長期優良住宅の基準プラス耐震等級3で、制震も標準で付けて地震に安心な家ですよ』と言うと、『そこまでやってるんですか』とみなさん驚かれるんです。[キト暮ラスカ]の空間を良いと思っているところにさらに担保されて、そこまでの性能だったらまかせていいかなと思って貰えるのだと思います。」
 
藤田 「家づくりの際、最初から性能について考えるお客様は少ないと思いますが、実は重要なんですよね。僕は、注文建築の家づくりって結婚相手を見つけるのと一緒だなと思うんですよ。ほとんどの人は一生に一度? の決断だし。最初は見かけが気になるけれど、いざとなると本当に大丈夫かなと不安になる。家をつくりたいという気持ちは性能などのデータの根拠から発生するのでなく、『いいな、欲しいな』という思いから発生するのだと思います。だから、木の空間の見た目は大事になるんですね。でも、実際にフジモクで家を建てるか建てないか判断するときには、当たり前に性能の根拠が求められます。」
 
川口 「結婚か〜、面白い考えですね。確かに、感性が合う・合わない、好き・嫌いって、一番最初は凄く大事ですよね。ただ、感性だけでは最終的な決断はできないですから。感性で『いいな』と思って貰った後から、性能について確認をすることで納得して頂けているんだと思います。」
 
藤田 「この空間で感じたことと、構造や温熱性能について説明を受けたこと、その両方が納得できるから、『フジモクさんなら安心!』と自然と思えるんでしょうね。[キト暮ラスカ]で自分らしく素敵な心地よい暮らしがみつかり、[フジモクの家]なら感性と性能の両方が実現できるということですね。」
 
川口 「完成見学会の位置づけが変わったのもありますね。初期の集客のイベントではなくて、お客様をランクアップさせるため、納得して決めてもらうためのイベントに変わりました。実際にどういう家を建てているのかという確認の場になったと思います。そこは私たちも柔軟に考え方を変えていきました。」
 
藤田 「それは、アウトプットの質が高まったということだと思いますよ。アウトプットの質によって、相手にどう受け止められるかが決まります。人はアウトプットしか見ません。そこから、いい・悪い、好き・嫌い、の判断をします。でも実は、その裏側にあるものもきちんと感じ取っているんですね。[キト暮ラスカ]に対して感覚的に『いいな』と思うその背景に、見た目だけではわからない[フジモクの家づくりの姿勢や暮らしへのまなざし]という本質的なものが含まれていて、それも感じ取っているのだと思います。」
 
川口 「[発信する側の無意識のアウトプット]ということですか?」
 
藤田 「はい。先ほど川口さんもお話しされていたように、暮らしの提案という方針によってスタッフの意識が変わったのもそれですよね。実際にお客様が[キト暮ラスカ]に来て、体験し、そして感情が動かされる。お客様はここで全てのことを感じ取っているんです。本来のアウトプットとは、意識的につくり出せるものと、その裏側にある無意識も含めて機能するものなんです。」
 
川口 「なるほどねー。確かにそうですね。」
 
藤田 「キト暮ラスカは、フジモクの家のブランド体験の場になっていると思うんですね。普通はプロモーションと言うとメッセージを一方的に送るのですが、ここは、実際に来て体験してもらうことで、その空間とか、スタッフのふるまいややりとりなど、いろいろな事を感じ取ってフジモクの印象へとつながっていくんだと思います。この道筋がまさしくブランディングですし、ブランド体験の場なんです。それにしても企画の段階から、空間づくり、イベント開催へと川口さんの行動力には頭が下がります。」
 
川口 「いやぁ、お客様を含めみんなの力でここまでやってこられました。これからも[キト暮ラスカ]から木のぬくもり、暮らし提案を発信して、地域に根ざした魅力ある家づくりをお客様と一緒に続けていきたいと思います。」
 
藤田 「お客様の心の琴線に触れる切り口とブランドストーリーや経験が、[キト暮ラスカ]やフジモクの家のいい記憶につながることを信じています。」
 
 
2017年10月12日 キト暮ラスカにて 
 
 

No.「体験」を「感情」につなげる
 
今回の対談の会場として、オープンして3年が経つ、木と暮らしのギャラリー・ショールーム・ショップ[キト暮ラスカ(※1)]にお邪魔しました。当日は「羊毛フェルトのオーナメントをつくりましょう」という暮らし教室が開かれていました。
 
藤田 「賑やかですね。平日のイベントにもこんなにたくさんの人が集まるんですか?」
 
川口 「ええ。週末はもちろん、平日にも多くのお客様が足を運んでくれるようになって、去年ぐらいからでしょうか、『[キト暮ラスカ]のような雰囲気の家を建てたい』と、相談に来てくださるお客様がとても増えました。おかげさまで契約数も増えたので、2階に新しく打ち合わせスペースをつくったんですよ。3年続けてきて、[キト暮ラスカ]の知名度だけではなく、[フジモク]の家づくりの認知度があがってきたことを実感しています。」
 
藤田 「もともと、フジモクさんは地元の富士ひのきをはじめとした無垢材にこだわった家づくりに取り組まれていましたよね。」
 
川口 「はい。この地域でずっと仕事をやらせていただいて、みなさんに支えられて今があるわけですから、地域に根ざし、地域に貢献しながら成長してゆきたいという思いがありました。」
 
藤田 「地域に根ざした家づくりの大切さは考えていても、それを具体的な形で情報発信するにはきっかけが必要だと思います。フジモクさんの場合は、本社移転を機に、空いたスペースを利用して富士ひのきの普及や地域活性化も含めた情報を発信したいということで川口さんからお話をいただいたのが[キト暮ラスカ]の始まりでしたよね。」
 
川口 「そうでしたね。以前は、フジモクの家づくりを多くの人に知ってもらいたいと思って[移動型モデルハウス]をやっていたんですよ。ただ、モデルハウスは既に出来上がった家なので、どうしてもすぐに間取りの話になってしまう。我々はそれよりも[木の暮らし]を感じてもらうところから入ってほしいという想いが強かったんです。木の家の室内空間を見てもらって『こんな雰囲気が良いな』『こんな空間で暮らしたいな』と思ってもらった人と一緒に家づくりがしたい。木の暮らしの提案をこの場から情報発信したいと思ったんです。」
 
藤田 「ご相談いただいた当初は僕自身、ポジショニングも含めて[キト暮ラスカ]と[フジモクの家(※2)]と[富士木材]について考えた時に、ショールームでもショップでもない曖昧な場所に、果たして人が来てくれるんだろうかと思ったこともありました。でも結果的には、家づくりの提案ではなく『気持ちのいい木の暮らしを提案する情報発信の場にする』という切り口がよかったんでしょうね。」
 
川口 「実は、我々も最初は不安だったんです。スタッフからは、『大変なだけだ』とか『それよりも見学会やイベントに労力をかけて直接的な集客をしたほうがいい』なんて不満の声も聞かれましたね。」
 
藤田 「そうだったんですね。」
 
川口 「でも、単なるモデルームやショールームにはしたくなかったんです。ショールームは敷居が高いし、地域の皆さんにもっと気軽に木の空間にふれてほしい。身近に感じられる暮らしのイベントを開催して、多くのお客様に来てもらうにはどうすれば良いか? 試行錯誤の毎日でしたね。最初2年は不安でしたけど、そんな中でもとにかく『木とどう暮らしていくか』、『木の空間で暮らすとこんなに楽しいよ』と感じてもらえる場になるよう、そこだけはぶれずにやってきたんですよ。」
 
藤田 「[フジモクの家づくりを知ってもらうためにモデルハウスへ来てもらう]という以前までのやり方を一度捉え直して、[気持ちのいい木の暮らしを感じてもらうための体験の場所をつくる]という別の解釈から課題解決に導き出したわけですね。ショップやイベントで訪れた人の[体験]が、『また来たい』『気持ちいいな』というお客さんの[感情]につながったんじゃないでしょうか。」
 
川口 「そうなんですよ。[キト暮ラスカ]はまさにそれが実現できた場所なんです。以前のモデルハウスでも、木の作家さんと一緒にイベントを開催することでお客様は集まってくれたんですが、実績にはあまりつながりませんでした。でも最近は『[キト暮ラスカ]のような雰囲気の家を建てたい』と話してくれるお客様が多くて、本当に嬉しいですね。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.2 ネーミングとロゴに伝わる大きな力を織り込む
 
川口 「ここまでぶれずにやってこられたのは、ネーミングの力も大きいと思っています。ネーミングがコンセプトそのものですから。当初、フィンランド語で[楽しむ]と言う意味を持つ[ハウスカ]をヒントに、[木の暮らし]をもじって[キノクラスカ]にしようかと考えていたのですが、藤田さんから[キノ]より[キト]のほうがいいのでは、という意見をいただいて。」
 
藤田 「ええ。[キノ]より[キト]の方がはっきりした意思が感じられるし、耳に残ると思ったんです。表記は、カタカナやひらがなにしてみたり、[木]や[暮]を漢字にしてみたり。活字の組み合わせで色々試した結果、最終的に[キト暮ラスカ]をご提案させていただきました。」
 
川口 「そうでしたね。ショップとしての気軽さは狙いつつ、でも名前にはやっぱりこだわりたい。最初はカッコイイ名前を付けようなんて考えていましたが(笑)、[暮らし方]と[フジモクの木]が結びついた名前になったのは嬉しかったですね。」
 
藤田 「ところが、ほとんどネーミングも決まり、いざロゴを作ろうとしたときに、川口さんから相談があったんですよね。」
 
川口 「そうなんです。実は、周りの人に『[キト暮ラスカ]と[フジモクの家]と[富士木材]がどういう関係かがわかりにくいから[フジモク]でいいじゃないの』と言われてしまって。確かに[フジモク]でも間違いではないけれど、それだと敷居が高くて人が来てくれないかもしれない。素敵な木の暮らしの提案を発信するためには、フジモクの名前を出さないでいきたかったんです。」
 
藤田 「そこから、再度ポジショニングマップをつくり直して、[キト暮ラスカ]と[フジモクの家]と[富士木材]の関係をもう一度整理したんですよね。」
 
川口 「そう、そう、そうでしたね。あの段階があったからこそ、改めて[キト暮ラスカ]というネーミングに納得することができたと思っています。」
 
藤田 「僕は、[富士木材]って言う名前がバックボーンにあることも良いことだと思っていました。[フジモクの家]は、地域の木材を使う家づくりの会社として軸がちゃんとしている。だからこそ、[キト暮ラスカ]という聞き慣れないネーミングでも成立したのだと思いますよ。」
 
川口 「聞き慣れない名前だからこそ、逆に注目されたりもするんですよ。その流れで『キト暮ラスカって言うのはね・・・』という話ができる。藤田さんがつくってくださったロゴマークも含めて、凄く気に入っています。」
 
藤田 「ありがとうございます。相談を受けた時に、自然素材の心地よさが広がるやわらかな空気感を体感できるのはいいなあと思っていたんです。すっきりして北欧らしい、あまり奇をてらわずにシンプルで。そういった空気感もロゴに表していきたいと考えました。[キト暮ラスカ]というネーミング自体が聞き慣れないので、ロゴにあまり余分な装飾を加えると違ったイメージを与えてしまうと思い、なるべくシンプルに仕上げました。細めのゴシックのロゴの上にフィンランドブルーの太目のラインを入れて、アテンションとして、真ん中にアスタリスクマークを入れました。」
 
川口 「フィンランドブルーの太目のラインとアスタリスクマーク、これがよかったですね。自分の中でもしっくりきました。」
 
藤田 「ロゴに関しては、会社やサービスを支える大黒柱のようなものですから、ロゴがきちんと決まれば社内にも理念が浸透しやすくなります。結果みんな一丸となって[キト暮ラスカ]を成功させるイメージが湧いてきたように思いますね。ロゴが生まれた経緯やロゴに対する思い、ロゴに込められたストーリーが熱いほど、対外的な印象も重厚になると思います。メッセージが[自分らしい素敵な木の暮らしができる]というストーリーとしてお客様の情緒に伝わったからこそ、理解され、信頼され、人気が出たんでしょうね。」
 
川口 「ネーミングやロゴマークや空間が出来上がったことで、だんだん自分たちの意識も変わりましたね。確かに社内にも理念が浸透してスタッフが一丸となりました。[暮らしの提案]を自分たちがしていく立場としての意識が変わってきたのかなと思いますね。」
 
藤田 「一概には言えませんが、地域工務店の中には、家づくりの技術へのこだわりが強い反面、お客様にどう訴えるかというプロモーションの部分が疎かになってしまうところがあったりするんですね。それでは工務店のマーケティングは成り立たないと思うんです。でも川口さんは、お客様の視点を常に意識されていますよね。お客様にどう伝わるのか、ということを。たとえばネーミングにこだわったように。」
 
川口 「そうですね。私にとってお客様がどう感じてくれるかっていうのは本当に大事なところです。藤田さんは、[キト暮ラスカ]に取り組む以前にもフジモクの家のパンフレットを制作してくださいましたよね。それが我々の家づくりのイメージを的確に表現してくれていたので、メッセージの部分やそれを表現するデザインは専門家の力を借りるべきだと実感していたんです。きっと今回もうまく表現してくれるだろうという期待がありました。」
 
藤田 「ネーミングとロゴマークは、最小限の情報に触れることで、人の心に最大限の力を発揮させることができるものだと思います。伝えるということは、相手の想像力を信じるということなんです。」
 
川口 「なるほど。」
 
藤田 「対象を深く掘り下げて、芯になる価値を最大限に引き出して、その魅力を的確に表現するのがデザイナーの仕事ですから。僕はデザインが正しく機能すれば、数秒とかからずに相手の心の中まで到達すると思っています。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.3 アウトプットの質を高める
 
藤田 「[キト暮ラスカ]の空間が心地よいというお客様が増えて、フジモクで家を建てたいと言ってくれている。これは[フジモクの家]が構造や省エネなど長期優良住宅の基準を超える性能も担保しているという安心感も制作させていただいたパンフレットなどで、お客様に伝わっているということですね。」
 
川口 「そうですね。家づくりの話をする時に、『フジモクの家は長期優良住宅の基準プラス耐震等級3で、制震も標準で付けて地震に安心な家ですよ』と言うと、『そこまでやってるんですか』とみなさん驚かれるんです。[キト暮ラスカ]の空間を良いと思っているところにさらに担保されて、そこまでの性能だったらまかせていいかなと思って貰えるのだと思います。」
 
藤田 「家づくりの際、最初から性能について考えるお客様は少ないと思いますが、実は重要なんですよね。僕は、注文建築の家づくりって結婚相手を見つけるのと一緒だなと思うんですよ。ほとんどの人は一生に一度? の決断だし。最初は見かけが気になるけれど、いざとなると本当に大丈夫かなと不安になる。家をつくりたいという気持ちは性能などのデータの根拠から発生するのでなく、『いいな、欲しいな』という思いから発生するのだと思います。だから、木の空間の見た目は大事になるんですね。でも、実際にフジモクで家を建てるか建てないか判断するときには、当たり前に性能の根拠が求められます。」
 
川口 「結婚か〜、面白い考えですね。確かに、感性が合う・合わない、好き・嫌いって、一番最初は凄く大事ですよね。ただ、感性だけでは最終的な決断はできないですから。感性で『いいな』と思って貰った後から、性能について確認をすることで納得して頂けているんだと思います。」
 
藤田 「この空間で感じたことと、構造や温熱性能について説明を受けたこと、その両方が納得できるから、『フジモクさんなら安心!』と自然と思えるんでしょうね。[キト暮ラスカ]で自分らしく素敵な心地よい暮らしがみつかり、[フジモクの家]なら感性と性能の両方が実現できるということですね。」
 
川口 「完成見学会の位置づけが変わったのもありますね。初期の集客のイベントではなくて、お客様をランクアップさせるため、納得して決めてもらうためのイベントに変わりました。実際にどういう家を建てているのかという確認の場になったと思います。そこは私たちも柔軟に考え方を変えていきました。」
 
藤田 「それは、アウトプットの質が高まったということだと思いますよ。アウトプットの質によって、相手にどう受け止められるかが決まります。人はアウトプットしか見ません。そこから、いい・悪い、好き・嫌い、の判断をします。でも実は、その裏側にあるものもきちんと感じ取っているんですね。[キト暮ラスカ]に対して感覚的に『いいな』と思うその背景に、見た目だけではわからない[フジモクの家づくりの姿勢や暮らしへのまなざし]という本質的なものが含まれていて、それも感じ取っているのだと思います。」
 
川口 「[発信する側の無意識のアウトプット]ということですか?」
 
藤田 「はい。先ほど川口さんもお話しされていたように、暮らしの提案という方針によってスタッフの意識が変わったのもそれですよね。実際にお客様が[キト暮ラスカ]に来て、体験し、そして感情が動かされる。お客様はここで全てのことを感じ取っているんです。本来のアウトプットとは、意識的につくり出せるものと、その裏側にある無意識も含めて機能するものなんです。」
 
川口 「なるほどねー。確かにそうですね。」
 
藤田 「キト暮ラスカは、フジモクの家のブランド体験の場になっていると思うんですね。普通はプロモーションと言うとメッセージを一方的に送るのですが、ここは、実際に来て体験してもらうことで、その空間とか、スタッフのふるまいややりとりなど、いろいろな事を感じ取ってフジモクの印象へとつながっていくんだと思います。この道筋がまさしくブランディングですし、ブランド体験の場なんです。それにしても企画の段階から、空間づくり、イベント開催へと川口さんの行動力には頭が下がります。」
 
川口 「いやぁ、お客様を含めみんなの力でここまでやってこられました。これからも[キト暮ラスカ]から木のぬくもり、暮らし提案を発信して、地域に根ざした魅力ある家づくりをお客様と一緒に続けていきたいと思います。」
 
藤田 「お客様の心の琴線に触れる切り口とブランドストーリーや経験が、[キト暮ラスカ]やフジモクの家のいい記憶につながることを信じています。」
 
2017年10月12日 キト暮ラスカにて 
 
 
 
 
 
 
 
 

ブルックスタジオ制作実例
>キト暮ラスカ
 

富士木材株式会社(フジモク)
 
1913年(大正2年)に川口材木店として創業。富士山麓の御用林から木を伐り出して製材するなど地域の木材を供給することを生業とした時代から、様々(ヒノキ、スギから海外の米マツ、北洋カラマツなど)な木材を扱う経験を経て、1975年(昭和50年)に木の家づくりをスタート。
 
▶︎フジモクの家ホームページ
▶︎富士木材株式会社ホームページ


※1)キト暮ラスカ:2014年2月、富士木材の新住宅ショールームとして誕生。ショールームやギャラリー、ショップにキッズルーム、木の工房や家づくりの資料館など、心地いい住まいとその暮らしから生まれる楽しみを様々なカタチで届けている。
※2)フジモクの家:富士木材株式会社 住宅部門のブランド名。フジモクの家は一本一本の木との出会いを大事にして、地域に根ざした快適で豊かな暮らしの提供に取り組んでいる。