第3話 「山一」だからできること
 
株式会社山一木研 林 俊哉(静岡県浜松市)

No.価値を探して磨く
 
山一木研さんにお伺いすると、林社長自ら挽きたての豆でコーヒーを入れてくれます。豆を挽く音が応接室に響き、そのうち深みのあるコーヒーの香りが漂う、とても贅沢な時間がゆっくりと流れます。
今日もそんな一杯のコーヒーをいただきながら、柔らかな雰囲気の中で話しがはじまりました。
 
藤田 「いつも、林さんの入れてくださるコーヒーは絶品ですねぇ。深い上にも柔らかい優しさがあります。」
 
 「そうですか?心を込めて入れてますからね〜(笑)。」
 
藤田 「林さんとの出会いは、専門家派遣として伺ったのが初めてですよね。」
 
 「そうですね。今から8年程前(2010年)になりますか?」
 
藤田 「初めてお伺いしたときから、こうしてコーヒーを入れてくださって、いつも楽しみにしているんですよ。」
 
 「そうですか?うれしいですね。あっそうそう8年前のはなし…そう、あのころ…『昔ながらの木工の固い会社』というイメージから脱却したいとすごく悩んでいた時期でね。何から手を付けて良いのかもわからず、悶々とした日々を過ごしていたんですよ。そんな時、偶然、専門家派遣の事業を知ったんです。」
 
藤田 「自社の課題を解決したくても、どこから手をつけていいか、誰に何を頼んで良いのかわからない方は沢山いるのかもしれませんね。」
 
 「そうなんですよ。藤田さんとの出会いは山一木研にとって、すごく大きなことでした。でもね、専門家派遣でデザイナーさんがみえるって聞いた時は、きっとクセやアクが強い人なんじゃないかなー。なんて思ってましたよ(笑)知らないってことは怖いですよねぇ。間違った方向への思い込みがふくらんじゃって、どんな人がくるんだろうって少し身構えていたところはありましたね。」
 
藤田 「あははは。で、いかがでしたか(笑)?」
 
 「いやいや、あははは。それまで勝手に持っていたデザイナーのイメージとはまったく違いましたね。すごくフランクで、色々な話が違和感なくできましたね。『えー?そんな話までするの?』という様な一見仕事には関係無さそうな話まで…。何より印象的だったのは、私の話を何時間もじっくりと聞いてくれたことでした。」
 
藤田 「僕が時間をかけてお話を聞いたのは、山一木研さんの中に発信すべき価値があると思っているからです。デザイナーが勝手に価値を生み出すのではなくて、山一木研さん中にある価値を注意深く探し出して磨いていくことがデザイナーの仕事なんですよ。だからまずはお話を聞いて、情報を整理して、山一木研さんらしさというアイデンティティを明確にした上で、再構築することでコンセプトを導きだしました。」
 
 「確かに、藤田さんと話をしていくことで具体的に自分達が何をしたいのかが明確になったのは実感しましたね。はじめは漠然と『昔ながらの製函工のイメージから脱して、何か新しいことがしたい』と考えていましたが、最終的に『受け継いできた技術を新しい価値にして発信していきたい』と着地することができたんです。」
 
藤田 「さらに、お話をする中でアイデンティティだけでなく、どういう気持ちで製品をつくるのかという“価値観”なども時間をかけて探っていったことで“木でつくる山一さんならではの自由な発想と繊細な技術”というコンセプトが生まれましたし、それを受けたから『山』と『一』をモチーフに “発想力”と“技術力”を表現したシンボルマークができたんだと思いますね。とても時間はかかりましたけど、コンセプトが統一されないままCIを進めても誰にも響きませんからね。」
 
 「実はね、藤田さんに相談する前に社内でシンボルマークとロゴタイプを考えてみたことがあるんですよ。」
 
藤田 「へぇー!そうだったんですか。どうでしたか?」
 
 「もう、全然ダメでしたね〜(笑)。社名を色んな書体で並べてみてもピンと来ないし、社員全員でマークを考えてみてもしっくり来ない。でも藤田さんが提案してくれたマークは迷わず選ぶ事ができたんです。それで気づいたんですよ、我々には、軸になるものと客観性が足りなかったんだと。」
 
藤田 「軸と客観性ですか?」
 
 「そうです。ブランディングは、山一木研が考えていることを相手に押し付けるのではなくて、相手が考えを受け取って頭の中にイメージするということが大切ですよね。ということは、マークをつくる時にも主観だけで考えてはいけなかったんです。ですから、私の考えやしたいことを全て話して聞いてもらってから、藤田さんが提案してくれたマークは、山一木研を客観的に見たイメージが最適なカタチになっていると感じたので、迷わず選べたんだと思います。」
 
藤田 「それを感じたということは、コンセプトを明確にしていく過程の中で林さんの中にも、客観的な山一木研へのイメージができあがっていたのかもしれませんね。」
 
 「あぁ、なるほどね。自社を違う角度で考えることができたから、マークやカラーリングを選ぶ際にも迷わず決められたんですね。」
 
藤田 「そうだと思いますよ。僕の経験からしても、自社の理念やコンセプトが明確になっていない状態で、シンボルマークの提案をしても全然選べないんですよ。だから何よりも、まずは話を聞くこと。そして依頼主の中にある価値を見つけ出すことが大事で、それを共有することでやっと軸ができる。世間一般のデザインのイメージってもっと感覚的に生まれてくるものだと思われがちですが、当然ロジックに考えることも必要なんですよね。こういう地道な作業が無ければ適切な見た目の表現=デザインはつくりだせないんです。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 

No.2 情感として、心の中に記憶してもらう
 
藤田 「CIによって山一木研の価値を深く探り出して磨く事ができたので、その価値をプロモーションでどうやって正しく伝えて行くか、という事が次の課題でしたね。」
 
 「そうでした。でもCIでしっかりとコンセプトを明確にできていたから、会社案内や製品パンフレット、それからホームページへとスムーズに適切なプロモーションができたと思いますね。」
 
藤田 「そこからしばらくして“クラシイス”のプロモーションのご相談をいただきましたよね。」
 
 「はい。その時は “クラシイス”という名前もまだ無くて。以前から天竜杉を使用したピアノ椅子の研究開発をしていたんですが…。いざ展示会へ出展する際に、どうすればいいかと悩み、やっぱり藤田さんに相談しようと。」
 
藤田 「最初に、何も塗装していない木目のきれいなナチュラルな状態で試作品を見せていただいたじゃないですか、あれがすごく印象的で。ピアノ椅子の定番の黒に塗装してしまうのは本物の木の良さが出せなくてもったいないから、そのまま販売できないかとお話したのを覚えています。」
 
 「そうでしたね。結果、様々な暮らしの空間に溶け込む椅子を開発できたと思います。」
 
藤田 「『暮らしの空間に溶け込む』というのが、身近に感じられて良かったんですよね。その上で昇降機能を活かして、子どもと大人が目線を合わせたり、お年寄りが座りやすい高さに調節したり、家族がリビングで使えるピアノ椅子というコンセプトが伝わる様に “クラシイス”というネーミングを一緒に考えましたね。機能やスペックで違いを出そうとしても、買う側からすればよく見なければ分からないものです。『売れる』をつくり出すためには、この椅子によって暮らしの空間の中で起こる『コト』を伝えなければと思ったんです。」
 
 「椅子によって起こる『コト』か〜、なるほど。ネーミングが決まってからはパンフレットやホームページの専用ページもお願いしましたね。おかげさまでプロモーションツールを使用した展示会では大変な好評をいただきました。その頃から、山一木研が木工製品をつくれる会社だということが認知されて行ったように思います。」
 
藤田 「認知度が上がって、周りの見方が変わりましたか?」
 
 「はい。昨年、伊豆にある高齢者向け分譲マンションからお話をいただき、木製の大きな集合ポストをつくらせていただいたんですが、その時も、山一木研のホームページから企業理念や『クラシイス』の雰囲気を理解して、声をかけてくれたと聞いて、とても嬉しく思いました。」
 
藤田 「なるほど!最初に抜け出したかった『製函工のイメージ』から脱して『木工メーカー』として認知されるようになったわけですね。それは山一木研さんの思いや志を含めた魅力や価値がメッセージを通して正しく伝わっているということですよね。」
 
 「ええ、正しく発信していくということは本当に大切だと感じましたね。」
 
藤田 「そうだと思います。」
 
 「2011年のCIの時に社員全員分の名刺をつくりましたよね。実はこれまで一度も名刺を持ったことのない社員もいたんですが、自分も会社の一員だということを自覚して、お客様だけでなく家族へも胸を張って『山一木研で働いている』と伝えて欲しかったんですよね。」
 
藤田 「それで社員の方の反応はどうでしたか?」
 
 「いやぁ、みんな感激していましたね〜。自信を持って名刺を渡して、それを受け取った人が『この会社なら良いものをつくってくれそうだな』と感じる。それも価値が伝わっていると言えますかね?」
 
藤田 「もちろんです!名刺も会社の顔ですからね。それを自信を持って渡すことは相手の情感にも伝わります。CIによって、ビジュアルの統一だけでなく、考え方や理念が統一されて、そして社員の行動も統一されました。シンボルマークとロゴタイプを核としてコンセプトに沿ったプロモーション展開を的確に行うことで、山一木研の“技術”や“発想力”がしっかりと発信・共有されているからこそ、好意的認知から信頼、共感の情感が心の中に記憶されたんだと思います。それが“クラシイス”や分譲マンションの大きなポストへと繋がっているんですよね。単なる露出をするだけではこうはいきません。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 

No.3 新しいことへの挑戦へ繋げる
 
藤田 「最近、新しい事業を始められたそうですね。」
 
 「はい、縁あって新しい会社に関ることになりました。その際にも、藤田さんと取り組んだ山一木研のCIの進め方を活かせましたし、山一木研の“木でつくる山一ならではの自由な発想と繊細な技術”というコンセプトがベースにあることで、新しい事業と相乗効果につながると思っているので、とても良い方向に進んでいると思います。」
 
藤田 「もっと言えば、CIによって進むべき方向ができ、さらにそこに社員のみなさんの行動や想いなどのエネルギーがうまく重なった事で道が開けたんですね。」
 
 「そうですね。良い製品をつくることは企業として当たり前なんですが、シンボルマークやホームページの様な見た目の部分から山一木研のコンセプトを感じ取ってもらえる様にコントロールすることが大事だと感じています。すごく大変なんですけどね(笑)。展示会などに出展をする際にもやはりその辺りは意識していますし、そうやってブレずに進めていくことで、さらに色々と声をかけていただけるようになりました。」
 
藤田 「それはとても良い傾向ですね。」
 
 「実は最近、はままつフラワーパークさんから年間の祭事のディスプレイ装飾の依頼を受けたりしているんです。」
 
藤田 「えーっ?装飾ですか?」
 
 「そうなんですよ。フラワーパークの職員さん達がデコレーションするための心材をつくるんです。初めて依頼を受けた時には自分達にできるんだろうかって思うほど大がかりなものでしたが、職員さんの描いたラフを元に自由な発想でチャレンジしました。大変でしたけど、とても上手く行きましたよ。クリスマスには煙突付の、人が入れるちいさな家をつくったり。なんと今は橋をつくっていますよ。」
 
藤田 「それはおもしろいことがはじまりましたね。それは社員の方が積極的にチャレンジするんですか?」
 
 「はい、社員全員が山一木研のコンセプトを理解していますから。新しいことを敬遠するのではなく、『面白そうだな』『どうやったらできるだろう』とチャレンジしていますよ。“できない”という発想が最初からないんです。」
 
藤田 「まさしくコンセプトの、“技術力”と“発想力”で『山一だからできること』をしているんですね。僕はコンセプトの構築やシンボルマークなどの制作やプロモーションに係わりましたけど、実践されているのは山一木研さんですから。社員がコンセプトを共有できている、そこが非常に大きな部分だと思います。ブランドをつくるというのは、当然デザイナーだけで成り立つものでは無いんですよね。企業側のブランドへの理解と意識がやはり大切だと感じています。」
 
 「藤田さんと出会って、僕の中でのデザインの重要性が変わりましたね。企業の中のデザインの立ち位置は、どこかの部署の附属になりがちですが、もっと会社のトップ(代表者)の近くに置くべきだと考えるようになりましたね。実際に今、それが良いカタチで機能していますし。」
 
藤田 「それはとても嬉しいことですね。『ターゲットを変えてみる』とか『販売方法を変えてみる』とか、もっと言えば『製品を開発する時の考え方を変えてみる』というような価値や意味、考え方をカタチにする方法がデザインですから。商品の品質を上げることはもちろん大切ですが、デザインの力で「売れる」をつくり出すことをトップの方が信用してくれるのは、大変心強いですよ。」
 
 「いくら品質の良い製品をつくっても、それだけでは買ってもらえません。例えば同じ製品があったとして、Aはそのまま売っているだけ、Bはその製品の良さを伝えようと写真だったり、説明だったりをしっかりと伝えようとしている。どっちが欲しいと思うかは一目瞭然ですよね。」
 
藤田 「そうですね。見え方をしっかりとコントロールするということだと思います。『こう思ってもらいたい』『こうしたら良いと思ってもらえる』という開発側の気遣いを見せる事ができるのもデザインです。」
 
 「そういう意味でも、デザインは本当に重要な部分ですね。経営者の考えがコストのみになってしまって、デザインに重きを置かなくなっては価値も何も正しく発信されませんからね。シンボルマークやホームページ、パンフレットを見て『良いものをつくっているね』と山一木研のコンセプトを感じ取って貰わなければ、世の中に無数にある製品、企業の中で埋もれてしまいますからね。」
 
藤田 「林さんのようにデザインの価値を理解していただける方と仕事ができるというのは、僕の力以上のものを発揮させてもらえることでもあると思います。常にチャレンジしていこうという気持ちと、発信していこうという考えがあってこそ、デザインは輝いていくんではないでしょうか。」
 
 「これからも藤田さんとつくりあげた山一木研のコンセプトを大切に、進んで行きたいと思います。」
 
藤田 「ありがとうございます。で、林さん、ひとつお願いがあるんですが。」
 
 「え?何ですか?」
 
藤田 「おいしいコーヒーをもう一杯、いただけますか?」
 
 「もちろん!喜んで。」
 
 
2017年10月24日 山一木研にて 
 
 
 
 

No.価値を探して磨く
 
山一木研さんにお伺いすると、林社長自ら挽きたての豆でコーヒーを入れてくれます。豆を挽く音が応接室に響き、そのうち深みのあるコーヒーの香りが漂う、とても贅沢な時間がゆっくりと流れます。
今日もそんな一杯のコーヒーをいただきながら、柔らかな雰囲気の中で話しがはじまりました。
 
藤田 「いつも、林さんの入れてくださるコーヒーは絶品ですねぇ。深い上にも柔らかい優しさがあります。」
 
 「そうですか?心を込めて入れてますからね〜(笑)。」
 
藤田 「林さんとの出会いは、専門家派遣として伺ったのが初めてですよね。」
 
 「そうですね。今から8年程前(2010年)になりますか?」
 
藤田 「初めてお伺いしたときから、こうしてコーヒーを入れてくださって、いつも楽しみにしているんですよ。」
 
 「そうですか?うれしいですね。あっそうそう8年前のはなし…そう、あのころ…『昔ながらの木工の固い会社』というイメージから脱却したいとすごく悩んでいた時期でね。何から手を付けて良いのかもわからず、悶々とした日々を過ごしていたんですよ。そんな時、偶然、専門家派遣の事業を知ったんです。」
 
藤田 「自社の課題を解決したくても、どこから手をつけていいか、誰に何を頼んで良いのかわからない方は沢山いるのかもしれませんね。」
 
 「そうなんですよ。藤田さんとの出会いは山一木研にとって、すごく大きなことでした。でもね、専門家派遣でデザイナーさんがみえるって聞いた時は、きっとクセやアクが強い人なんじゃないかなー。なんて思ってましたよ(笑)知らないってことは怖いですよねぇ。間違った方向への思い込みがふくらんじゃって、どんな人がくるんだろうって少し身構えていたところはありましたね。」
 
藤田 「あははは。で、いかがでしたか(笑)?」
 
 「いやいや、あははは。それまで勝手に持っていたデザイナーのイメージとはまったく違いましたね。すごくフランクで、色々な話が違和感なくできましたね。『えー?そんな話までするの?』という様な一見仕事には関係無さそうな話まで…。何より印象的だったのは、私の話を何時間もじっくりと聞いてくれたことでした。」
 
藤田 「僕が時間をかけて話を聞いたのは、山一木研さんの中に発信すべき価値があると思っているからです。デザイナーが勝手に価値を生み出すのではなくて、山一木研さん中にある価値を注意深く探し出して磨いていくことがデザイナーの仕事なんですよ。だからまずはお話を聞いて、情報を整理して、山一木研さんらしさというアイデンティティを明確にした上で、再構築することでコンセプトを導きだしました。」
 
 「確かに、藤田さんと話をしていくことで具体的に自分達が何をしたいのかが明確になったのは実感しましたね。はじめは漠然と『昔ながらの製函工のイメージから脱して、何か新しいことがしたい』と考えていましたが、最終的に『受け継いできた技術を新しい価値にして発信していきたい』と着地することができたんです。」
 
藤田 「さらに、お話をする中でアイデンティティだけでなく、どういう気持ちで製品をつくるのかという“価値観”なども時間をかけて探っていったことで“木でつくる山一さんならではの自由な発想と繊細な技術”というコンセプトが生まれましたし、それを受けたから『山』と『一』をモチーフに “発想力”と“技術力”を表現したシンボルマークができたんだと思いますね。とても時間はかかりましたけど、コンセプトが統一されないままCIを進めても誰にも響きませんからね。」
 
 「実はね、藤田さんに相談する前に社内でシンボルマークとロゴタイプを考えてみたことがあるんですよ。」
 
藤田 「へぇー!そうだったんですか。どうでしたか?」
 
 「もう、全然ダメでしたね〜(笑)。社名を色んな書体で並べてみてもピンと来ないし、社員全員でマークを考えてみてもしっくり来ない。でも藤田さんが提案してくれたマークは迷わず選ぶ事ができたんです。それで気づいたんですよ、我々には、軸になるものと客観性が足りなかったんだと。」
 
藤田 「軸と客観性ですか?」
 
 「そうです。ブランディングは、山一木研が考えていることを相手に押し付けるのではなくて、相手が考えを受け取って頭の中にイメージするということが大切ですよね。ということは、マークをつくる時にも主観だけで考えてはいけなかったんです。ですから、私の考えやしたいことを全て話して聞いてもらってから、藤田さんが提案してくれたマークは、山一木研を客観的に見たイメージが最適なカタチになっていると感じたので、迷わず選べたんだと思います。」
 
藤田 「それを感じたということは、コンセプトを明確にしていく過程の中で林さんの中にも、客観的な山一木研へのイメージができあがっていたのかもしれませんね。」
 
 「あぁ、なるほどね。自社を違う角度で考えることができたから、マークやカラーリングを選ぶ際にも迷わず決められたんですね。」
 
藤田 「そうだと思いますよ。僕の経験からしても、自社の理念やコンセプトが明確になっていない状態で、シンボルマークの提案をしても全然選べないんですよ。だから何よりも、まずは話を聞くこと。そして依頼主の中にある価値を見つけ出すことが大事で、それを共有することでやっと軸ができる。世間一般のデザインのイメージってもっと感覚的に生まれてくるものだと思われがちですが、当然ロジックに考えることも必要なんですよね。こういう地道な作業が無ければ適切な見た目の表現=デザインはつくりだせないんです。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 
 
 
 

No.2 情感として、心の中に記憶してもらう
 
藤田 「CIによって山一木研の価値を深く探り出して磨く事ができたので、その価値をプロモーションでどうやって正しく伝えて行くか、という事が次の課題でしたね。」
 
 「そうでした。でもCIでしっかりとコンセプトを明確にできていたから、会社案内や製品パンフレット、それからホームページへとスムーズに適切なプロモーションができたと思いますね。」
 
藤田 「そこからしばらくして“クラシイス”のプロモーションのご相談をいただきましたよね。」
 
 「はい。その時は “クラシイス”という名前もまだ無くて。以前から天竜杉を使用したピアノ椅子の研究開発をしていたんですが…。いざ展示会へ出展する際に、どうすればいいかと悩み、やっぱり藤田さんに相談しようと。」
 
藤田 「最初に、何も塗装していない木目のきれいなナチュラルな状態で試作品を見せていただいたじゃないですか、あれがすごく印象的で。ピアノ椅子の定番の黒に塗装してしまうのは本物の木の良さが出せなくてもったいないから、そのまま販売できないかとお話したのを覚えています。」
 
 「そうでしたね。結果、様々な暮らしの空間に溶け込む椅子を開発できたと思います。」
 
藤田 「『暮らしの空間に溶け込む』というのが、身近に感じられて良かったんですよね。その上で昇降機能を活かして、子どもと大人が目線を合わせたり、お年寄りが座りやすい高さに調節したり、家族がリビングで使えるピアノ椅子というコンセプトが伝わる様に “クラシイス”というネーミングを一緒に考えましたね。機能やスペックで違いを出そうとしても、買う側からすればよく見なければ分からないものです。『売れる』をつくり出すためには、この椅子によって暮らしの空間の中で起こる『コト』を伝えなければと思ったんです。」
 
 「椅子によって起こる『コト』か〜、なるほど。ネーミングが決まってからはパンフレットやホームページの専用ページもお願いしましたね。おかげさまでプロモーションツールを使用した展示会では大変な好評をいただきました。その頃から、山一木研が木工製品をつくれる会社だということが認知されて行ったように思います。」
 
藤田 「認知度が上がって、周りの見方が変わりましたか?」
 
 「はい。昨年、伊豆にある高齢者向け分譲マンションからお話をいただき、木製の大きな集合ポストをつくらせていただいたんですが、その時も、山一木研のホームページから企業理念や『クラシイス』の雰囲気を理解して、声をかけてくれたと聞いて、とても嬉しく思いました。」
 
藤田 「なるほど!最初に抜け出したかった『製函工のイメージ』から脱して『木工メーカー』として認知されるようになったわけですね。それは山一木研さんの思いや志を含めた魅力や価値がメッセージを通して正しく伝わっているということですよね。」
 
 「ええ、正しく発信していくということは本当に大切だと感じましたね。」
 
藤田 「そうだと思います。」
 
 「2011年のCIの時に社員全員分の名刺をつくりましたよね。実はこれまで一度も名刺を持ったことのない社員もいたんですが、自分も会社の一員だということを自覚して、お客様だけでなく家族へも胸を張って『山一木研で働いている』と伝えて欲しかったんですよね。」
 
藤田 「それで社員の方の反応はどうでしたか?」
 
 「いやぁ、みんな感激していましたね〜。自信を持って名刺を渡して、それを受け取った人が『この会社なら良いものをつくってくれそうだな』と感じる。それも価値が伝わっていると言えますかね?」
 
藤田 「もちろんです!名刺も会社の顔ですからね。それを自信を持って渡すことは相手の情感にも伝わります。CIによって、ビジュアルの統一だけでなく、考え方や理念が統一されて、そして社員の行動も統一されました。シンボルマークとロゴタイプを核としてコンセプトに沿ったプロモーション展開を的確に行うことで、山一木研の“技術”や“発想力”がしっかりと発信・共有されているからこそ、好意的認知から信頼、共感の情感が心の中に記憶されたんだと思います。それが“クラシイス”や分譲マンションの大きなポストへと繋がっているんですよね。単なる露出をするだけではこうはいきません。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 
 
 
 

No.3 新しいことへの挑戦へ繋げる
 
藤田 「最近、新しい事業を始められたそうですね。」
 
 「はい、縁あって新しい会社に関ることになりました。その際にも、藤田さんと取り組んだ山一木研のCIの進め方を活かせましたし、山一木研の“木でつくる山一ならではの自由な発想と繊細な技術”というコンセプトがベースにあることで、新しい事業と相乗効果につながると思っているので、とても良い方向に進んでいると思います。」
 
藤田 「もっと言えば、CIによって進むべき方向ができ、さらにそこに社員のみなさんの行動や想いなどのエネルギーがうまく重なった事で道が開けたんですね。」
 
 「そうですね。良い製品をつくることは企業として当たり前なんですが、シンボルマークやホームページの様な見た目の部分から山一木研のコンセプトを感じ取ってもらえる様にコントロールすることが大事だと感じています。すごく大変なんですけどね(笑)。展示会などに出展をする際にもやはりその辺りは意識していますし、そうやってブレずに進めていくことで、さらに色々と声をかけていただけるようになりました。」
 
藤田 「それはとても良い傾向ですね。」
 
 「実は最近、はままつフラワーパークさんから年間の祭事のディスプレイ装飾の依頼を受けたりしているんです。」
 
藤田 「えーっ?装飾ですか?」
 
 「そうなんですよ。フラワーパークの職員さん達がデコレーションするための心材をつくるんです。初めて依頼を受けた時には自分達にできるんだろうかって思うほど大がかりなものでしたが、職員さんの描いたラフを元に自由な発想でチャレンジしました。大変でしたけど、とても上手く行きましたよ。クリスマスには煙突付の、人が入れるちいさな家をつくったり。なんと今は橋をつくっていますよ。」
 
藤田 「それはおもしろいことがはじまりましたね。それは社員の方が積極的にチャレンジするんですか?」
 
 「はい、社員全員が山一木研のコンセプトを理解していますから。新しいことを敬遠するのではなく、『面白そうだな』『どうやったらできるだろう』とチャレンジしていますよ。“できない”という発想が最初からないんです。」
 
藤田 「まさしくコンセプトの、“技術力”と“発想力”で『山一だからできること』をしているんですね。僕はコンセプトの構築やシンボルマークなどの制作やプロモーションに係わりましたけど、実践されているのは山一木研さんですから。社員がコンセプトを共有できている、そこが非常に大きな部分だと思います。ブランドをつくるというのは、当然デザイナーだけで成り立つものでは無いんですよね。企業側のブランドへの理解と意識がやはり大切だと感じています。」
 
 「藤田さんと出会って、僕の中でのデザインの重要性が変わりましたね。企業の中のデザインの立ち位置は、どこかの部署の附属になりがちですが、もっと会社のトップ(代表者)の近くに置くべきだと考えるようになりましたね。実際に今、それが良いカタチで機能していますし。」
 
藤田 「それはとても嬉しいことですね。『ターゲットを変えてみる』とか『販売方法を変えてみる』とか、もっと言えば『製品を開発する時の考え方を変えてみる』というような価値や意味、考え方をカタチにする方法がデザインですから。商品の品質を上げることはもちろん大切ですが、デザインの力で「売れる」をつくり出すことをトップの方が信用してくれるのは、大変心強いですよ。」
 
 「いくら品質の良い製品をつくっても、それだけでは買ってもらえません。例えば同じ製品があったとして、Aはそのまま売っているだけ、Bはその製品の良さを伝えようと写真だったり、説明だったりをしっかりと伝えようとしている。どっちが欲しいと思うかは一目瞭然ですよね。」
 
藤田 「そうですね。見え方をしっかりとコントロールするということだと思います。『こう思ってもらいたい』『こうしたら良いと思ってもらえる』という開発側の気遣いを見せる事ができるのもデザインです。」
 
 「そういう意味でも、デザインは本当に重要な部分ですね。経営者の考えがコストのみになってしまって、デザインに重きを置かなくなっては価値も何も正しく発信されませんからね。シンボルマークやホームページ、パンフレットを見て『良いものをつくっているね』と山一木研のコンセプトを感じ取って貰わなければ、世の中に無数にある製品、企業の中で埋もれてしまいますからね。」
 
藤田 「林さんのようにデザインの価値を理解していただける方と仕事ができるというのは、僕の力以上のものを発揮させてもらえることでもあると思います。常にチャレンジしていこうという気持ちと、発信していこうという考えがあってこそ、デザインは輝いていくんではないでしょうか。」
 
 「これからも藤田さんとつくりあげた山一木研のコンセプトを大切に、進んで行きたいと思います。」
 
藤田 「ありがとうございます。で、林さん、ひとつお願いがあるんですが。」
 
 「え?何ですか?」
 
藤田 「おいしいコーヒーをもう一杯、いただけますか?」
 
 「もちろん!喜んで。」
 
2017年10月24日 山一木研にて 
 
 
 
 
 
 
 

ブルックスタジオ制作実例
>山一木研
>山一木研ホームページ
 

株式会社山一木研
 
創業当初より培ってきた木を用いた梱包材の製造・梱包の技術と知識をもとに2007年より木工製品事業を開始。“木でつくる山一ならではの自由な発想と繊細な技術”をコンセプトに地球環境保護にも取り組みながら製品開発を行う。代表する商品にピアノ補助ペダル「M-60」、地元天竜杉を活用したピアノ椅子「クラシイス」がある。
 
▶︎山一木研ホームページ