第4話 心でとどける。心をむすぶ。
 
株式会社アウンズ・ヤナギハラ 柳原 一貴(静岡県浜松市)

No.理念をカタチにしてほしい
 
藤田 「今日は風が強いですねー。今朝方までひどい雨ふりでしたし、こんな日は新聞配達のみなさんは大変ですね。」
 
柳原 「いやいや、どんな状況でも、新聞をお待ちになっているお客様に安全にお届けできるよう心がけていますよ。特に雨の日は、不自由なくご覧いただけるように新聞をビニールに入れてお配りしています。」
 
藤田 「いつも思いますが、アウンズのみなさんは気配りが行き届いていて気持ちがいいですね。」
 
柳原 「ありがとうございます。それが伝わってか、時には労いの言葉をかけてくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。そうした優しさにふれることで、スタッフ自身も喜びを感じることが多いんです。」
 
藤田 「たしか、アウンズさんのシンボルマークを制作させていただいたのは15年くらい前になりますよね。」
 
柳原 「ええ。2002年でしたね。まだ『柳原新聞店』という社名だったころです。当時、会社の知名度に比べて経営理念があまり伝わっていなかった。経営理念を新しくしたタイミングもあって、もっとわかりやすく、内外にいかに浸透させるにはどうすればいいか考えていて・・・。」
 
藤田 「そうでしたね。『ファミリーのような会社づくり』と、『情報やサービスの提供による地域の皆様とハートフルなネットワークの創造』という理念をカタチにしてほしいというご相談をいただきました。」
 
柳原 「そうなんです。実は、いつだったか、藤田さんの講演を聞いたことがきっかけだったんですよ。『企業が業績を高めるためにはいかにブランディングが必要か』という力説(笑)に圧倒されて!」
 
藤田  「そうだったんですか。ブランドには『識別』という役割があるんですね。つまり・・・(力説5分後)あ、また力説しちゃいましたね・・・。」
 
柳原 「あはは、力抜いて。」
 
藤田 「すみません。ついつい(笑)。さて、本題にまいりましょう。当時、柳原さんからの依頼を受けて、まずは柳原新聞店の現状や未来についてお話をお伺いしましたね。それから、具体的にブランド構築の基本方針の策定。課題抽出、ブランド・アイデンティティの構造の説明、コミュニケーション・シナリオの概念図をフローチャートで説明させていただいて、CI(※1)開発が始まりました。」
 
柳原 「ええ。新聞を届けるだけじゃなく、様々な新しいサービスに取り組むことで、お客様と枠組みを超えたお付き合いをしたい。販売店が核となって地域課題も解決できるようなコミュニティを創出できたら、と考えていました。」
 
藤田 「柳原新聞店はそのとき既に、社屋や販売店の一部を使って、趣味の講習会を開催したり、オリジナル情報誌、エムズ倶楽部というカルチャーサロン、コールセンター業務も始めていましたよね。その上で、柳原新聞店がいままでやってきたことを原理原則に立ち返って考えてみて、これから10年先も変わらないことって何だろうと。」
 
柳原 「我々が目指していたのは、生活情報サービスの提供です。『とどける、むすぶ、ひろがる』。これはきっと変わらないだろうと話し合いました。」
 
藤田 「はい。そうして生まれたのが『心でとどける。心をむすぶ。』というブランド・スローガンでしたね。」
 
柳原 「経営理念がちゃんと連想できるブランド・スローガンになったことが、なによりも良かったなあと思っています。それは、シンボルマークも同じ。なかなかそういう企業って少ないでしょう。」
 
藤田 「そうですね。本来はそうあるべきなんですけどね。柳原さんの場合は強い理念があったから、シンボルマークに関してもビジュアルにしやすかったですよ。本質は、『とどける、むすぶ、ひろがる』ですから。」
 
柳原 「それにしても、こんな風に3つのビジュアルが重なったシンボルマークにするっていうのは藤田さん、うまいこと考えましたよね。正直いっちゃうと、最初に見たときから『これだ!』って直感してたんですよ。」
 
藤田 「本当ですか。確かに、シンボルマークというとひとつだけで表現されている方が印象が強いかもしれないですね。でも僕は、柳原さんの取組まれていることって、とてもひとつじゃ表せないと感じたんです。」
 
柳原 「まさにそうですね。3つのビジュアルを組み合わせるのはうちの経営理念にぴったりですよ。」
 
藤田 「それから、3つの組み合わせだけじゃなくて、真ん中のひとつだけでもシンボルとして使えるようにしたのも新しかったのかもしれません。柳原新聞店のCIは、デザイン業界でも高い評価をいただいて、デザイン賞をはじめ多くの書籍にも掲載させていただきました。」
 
柳原 「そうでしたね。僕も、報告を受けるたびにとても誇らしい気持ちになりました。」
 
藤田 「『CIとはマークを新しくすること』と理解されることが多いのですが、その本質は『企業文化を高め、顧客をはじめとする関係者や企業、社会とよりよい関係を築くこと』が目的です。MI(※2)(考え方や理念の統一)、BI(※3)(行動の統一)、VI(※4)(視覚の統一)の3つの要素がそろって、CIが生み出されます。つまり、理念を分かりやすく親しみやすい言葉にしたり、シンボルマークを分かりやすいカタチにして効果的に使ったりすることで、社会の中に浸透させていくことが大切なんですね。」
 
柳原 「なるほど。確かに、シンボルマークができたことで、理念がスタッフにも浸透し、会社として向かうべき方向がはっきりしました。それに、スタッフだけじゃなく、お客様や周りにも浸透したのか、うちの会社を理解して評価してくれる人がとても増えました。それって、すごく幸せなことです。」
 
藤田 「『幸せ』、それは僕にとってもありがたい言葉です。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 

No.2 社名を変えるという決断
 
柳原 「その後、藤田さんにはスマイルスタッフ(※5)や、アクル(※6)、ファーブル(※7)といった新規事業についても、ネーミングやロゴマークをつくっていただきましたね。」
 
藤田 「それぞれに時間はかかりました。ネーミングやロゴマークは、『柳原新聞店』というブランドとの係わりや、それぞれの会社や事業がスタッフやお客様に明確な存在意義を感得していただいてはじめて意味を持つものなので。シンボルマークやロゴマーク、ロゴタイプは、お客様を巻き込みつつ、パーソナリティや明確なイメージを正しく伝えることで認識され、感得される知的資産ですから。」
 
柳原 「おっしゃる通り。藤田さんはそういった見えない部分までしっかり考えてくださるから信頼できるんですよ。できあがったデザインも、どれも期待通りで満足していますし。」
 
藤田 「いやぁ、ありがとうございます。柳原さんの熱い想いを知っていたからこそ、こちらもそれに応えたいという気持ちが大きくなるんですよ。さて、次に社名変更(2015年)のお話をお伺いしたいんですが・・・。」
 
柳原 「ええ。新規事業も少しずつ軌道に乗り、いよいよ『新聞配達業』という括りではおさまらなくなってきたことが大きくて、社名変更を考えたわけです。」
 
藤田 「あのとき、柳原さんが『社名変更はするけど、ブランド・スローガンとシンボルマークは気に入ってるから残したい』とおっしゃってくださったこと、嬉しかったですねえ。」
 
柳原 「ははは。だって、このふたつは我々の経営理念そのものだから。社名を変えるとなった時でも、やっぱり変えたくなかったんですよ。」
 
藤田 「社名変更の時には、社内でも特別にプロジェクトを立ち上げられたとお聞きしましたが。」
 
柳原 「ええ。最初は私ひとりで考えていました。でも、会社としてスタッフが主体的に考え、共有してゆくことで、自分たちがこれからどうあるべきか、『2020年の私たち』と題して何度も何度も話し合いましたよ。ビジョンや文化のない会社では価値は伝わりませんから。」
 
藤田 「社名を変えると決めたとき、スタッフのみなさんの反応はどうだったんですか?」
 
柳原 「うーん、最初は反対の声も多かったですねぇ。せっかく浸透してる名前を変えるのはどうか?と。でもね、時代が大きく変わっていくことも事実。今まで通りの新聞店ではなく、新規事業も含めた当社のブランド価値を認識してもらうためには、社名を変えることが必須なんだとスタッフには伝えました。理解してもらうのに時間はかかりましたけど、これから先も選ばれるために何を変え、何をプラスしてゆけば良いかとことん話し合うことで、やるべきことがより具体化されて、やっとふみきることができたんです。」
 
藤田 「貴重な時間だったんですね。社内プロジェクトで議論されたレポートをいただいたので、じっくり読み込み、こちらも時間をかけてネーミングをご提案させていただきました。最終的に決まったのが『アウンズ・ヤナギハラ』でしたね。」
 
柳原 「はい。新聞店を外した社名にしたかった。本当は『ヤナギハラ』も外したかったんですけどね。でもそれは今じゃない。今はまだ、先代から50年以上地元に愛されてきた『柳原新聞店』の『ヤナギハラ』がないと、どこのだれなのか分からなくなってしまうような気がして。」
 
藤田 「そういった、財産を引き継ぐことは実はすごく大事ですよ。そしたら、今後は『アウンズ』だけになるなんてことも?」
 
柳原 「あるんじゃないかな。そのうち『ヤナギハラ』と同じくらい『アウンズ』が認知されていけば、将来的には『アウンズ』だけにしたいっていうのが僕の希望です。『アウンズ浜松』とか、『アウンズ横浜』とか、そういうカタチで展開できればなあと思っています。」
 
藤田 「それは僕も楽しみです。ちなみに今現在、社名変更してから2年ぐらい経ちますが、評判はいかがですか?」
 
柳原 「評判?すっごくいいですよ。『アウンズ』という言葉がだんだん浸透してきているんじゃないかなあ。最初の頃は、『アウンズってどういう意味ですか?』とよく聞かれました。そんなときは、『あ・うんの呼吸から来ていますよ』と説明すれば、みなさんすぐに『なるほど』と納得してくれましたよ。」
 
藤田 「そうでしたか。社名変更のタイミングで、コミュニケーション展開もさらに広げましたよね。名刺や封筒、社屋の看板はもちろん、バス広告とか、スタッフジャンパーなどのツールも制作しました。周りの目に触れる機会も増えたんじゃないでしょうか?」
 
柳原 「ええ。そうなんです。新聞販売店というと、伝え方や表現がどこも一緒になってしまうけど、我々は、自分たちらしいシンボルマークやスローガンでわかりやすく伝えていくことができる。同じ業界の中でも、他とは違うということを明確に打ち出しているから、それが新鮮だと言ってもらえます。」
 
藤田 「『差異化』ですね。」
 
柳原 「はい。でも、だからといって差異化は、マークをつくれば自動的にできるということじゃない。このマークには、ちゃんと理念が見えるから伝わった。理念をカタチに落とし込めたんです。」
 
藤田 「おっしゃる通りです。柳原さんは、理念をカタチにすることの大切さと難しさを理解してくださっているから嬉しいです。意味があるカタチじゃないと伝わらないですからね。これは、デザイナーとして常に大切にしていることのひとつです。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 

No.3 答えはお客様の中に
 
藤田 「『生活情報サービス業』から、今は『ホスピタリティ流通業』へ。先ほどからもお話に出ている、事業展開の広がりを想像させますね。」
 
柳原 「これもやっぱり、シンボルマークやブランド・スローガンの力が大きいですよ。うちは、超地域密着型カルチャーサロンや情報誌の発行、地域ポータルサイトの運営、食品宅配事業や困りごと相談の生活サポート事業、機能訓練専門のデイサービスの事業展開もブランド・スローガンの通りやっているだけです。」
 
藤田 「なるほど。『ひととひと。ひととモノ。ひとと暮らし。ひとと社会。そうしたかかわりの結び目として、送り手として、広く、きめ細やかにお役に立ちたい。あ・うんの呼吸で心ある流通のかたちをとどける』ということですね。」
 
柳原 「そう、そう。それも『心でとどける。心をむすぶ。』。これを軸に事業展開してるだけで、別のことをやっているわけではないから、より多角化しやすくなるんです。アウンズ・ヤナギハラの経営理念にのっとってやっているだけなんです。」
 
藤田 「まさにそうですね。アウンズ・ヤナギハラは、統一された意図を視覚的なメッセージにしてコミュニケーションをしっかり機能させている。トーンやマナーを守って企業のイメージを発信させている。それがたくさんのお客様との接点で重なって、ブランド構築につながっているのがわかります。ほんと!素晴らしいですね。」
 
柳原 「あっはは、またあ。もちろん新しい事業をやる難しさはありますけどね。でも、『我々はこの方向に行くんだ』という理念がブランド・スローガンとしてしっかり提示されているから、なんにもぶれなかった。会社が向かうべき方向性がしっかりしていれば、それらを実現するための手段はいくらでも考えることはできると思っています。」
 
藤田 「それは『戦略』と『戦術』の話ですね。戦略があって、その下に戦術があると。でも実行しなければ実現しない。いやぁ、ほんとに柳原さんの行動力はすごい!いつだったか、柳原さんが大切にしていることは『とにかくお客様の声をよく聞くこと』だとおっしゃっていて、度量が大きい人だと感じました。いつお会いしても、ニコニコとおおらかな柳原さんのお人柄が伝わる言葉だなー、と印象的でした。」
 
柳原 「答えはお客様の中にありますからね。お客様が持っているちょっとしたひと言をうまく引き出して、答えとなるキーワードを見つけていく。クレームじゃなくてね。」
 
藤田 「デザイナーの仕事も、依頼主の声をよく聞くことからはじまります。相手の話をよく聞く。わからないことは質問して背景にあるものまで理解しておく。その上で、より良い状況をつくり出すためには、何をすればいいのか。魅力を印象的に伝えるにはどうすればいいのか。それを考えながら、課題を見つけ出し、解決の糸口を探し出す。僕は、それが『デザインの思考』だと思っています。そして、最終的にコンセプトやメッセージを視覚言語化して伝わる表現にするのが『デザインの手法』。『デザイン』は、この2つの行為があって成立するんです。デザインは目的ではなく、手段なのです。」
 
柳原 「価値は、相手の中に眠っているということですね。答えはお客様の中にある、それを見つけ出して、自分たちの磨き上げた価値と交換する。お互いが価値を交換し合うのがビジネスの根本だと思うよ。実際に、藤田さんのディレクションは心がこもっていたし、できあがったデザインも心に通じるものがあった。『デザインは目的ではなく、手段』。藤田さんらしいね。」
 
藤田 「今日お話を伺って改めて思ったことですが、シンボルマークを制作させていただいてから15年。柳原さんはじめスタッフのみなさん、お客様に愛され、育てられて、大きく羽ばたいているように思えます。これはデザイナーにとって何よりも幸せなことです。これからも永く愛されるマークでありますよう期待しています。今日はありがとうございました。」
 
柳原 「これからも私たちアウンズ・ヤナギハラは、お客様との関係性をさらに深めて、地域の方々の必要な時に必要な声にお応えできる、浜松になくてはならない会社へと進化してゆきます、必ず。藤田さんのおっしゃった『デザインは手段』、これからも上手く活用させてもらいます(笑)。」
 
 
2017年10月23日アウンズ・ヤナギハラにて
 
 
 
 

No.理念をカタチにしてほしい
 
藤田 「今日は風が強いですねー。今朝方までひどい雨ふりでしたし、こんな日は新聞配達のみなさんは大変ですね。」
 
柳原 「いやいや、どんな状況でも、新聞をお待ちになっているお客様に安全にお届けできるよう心がけていますよ。特に雨の日は、不自由なくご覧いただけるように新聞をビニールに入れてお配りしています。」
 
藤田 「いつも思いますが、アウンズのみなさんは気配りが行き届いていて気持ちがいいですね。」
 
柳原 「ありがとうございます。それが伝わってか、時には労いの言葉をかけてくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。そうした優しさにふれることで、スタッフ自身も喜びを感じることが多いんです。」
 
藤田 「たしか、アウンズさんのシンボルマークを制作させていただいたのは15年くらい前になりますよね。」
 
柳原 「ええ。2002年でしたね。まだ『柳原新聞店』という社名だったころです。当時、会社の知名度に比べて経営理念があまり伝わっていなかった。経営理念を新しくしたタイミングもあって、もっとわかりやすく、内外にいかに浸透させるにはどうすればいいか考えていて・・・。」
 
藤田 「そうでしたね。『ファミリーのような会社づくり』と、『情報やサービスの提供による地域の皆様とハートフルなネットワークの創造』という理念をカタチにしてほしいというご相談をいただきました。」
 
柳原 「そうなんです。実は、いつだったか、藤田さんの講演を聞いたことがきっかけだったんですよ。『企業が業績を高めるためにはいかにブランディングが必要か』という力説(笑)に圧倒されて!」
 
藤田  「そうだったんですか。ブランドには『識別』という役割があるんですね。つまり・・・(力説5分後)あ、また力説しちゃいましたね・・・。」
 
柳原 「あはは、力抜いて。」
 
藤田 「すみません。ついつい(笑)。さて、本題にまいりましょう。当時、柳原さんからの依頼を受けて、まずは柳原新聞店の現状や未来についてお話をお伺いしましたね。それから、具体的にブランド構築の基本方針の策定。課題抽出、ブランド・アイデンティティの構造の説明、コミュニケーション・シナリオの概念図をフローチャートで説明させていただいて、CI(※1)開発が始まりました。」
 
柳原 「ええ。新聞を届けるだけじゃなく、様々な新しいサービスに取り組むことで、お客様と枠組みを超えたお付き合いをしたい。販売店が核となって地域課題も解決できるようなコミュニティを創出できたら、と考えていました。」
 
藤田 「柳原新聞店はそのとき既に、社屋や販売店の一部を使って、趣味の講習会を開催したり、オリジナル情報誌、エムズ倶楽部というカルチャーサロン、コールセンター業務も始めていましたよね。その上で、柳原新聞店がいままでやってきたことを原理原則に立ち返って考えてみて、これから10年先も変わらないことって何だろうと。」
 
柳原 「我々が目指していたのは、生活情報サービスの提供です。『とどける、むすぶ、ひろがる』。これはきっと変わらないだろうと話し合いました。」
 
藤田 「はい。そうして生まれたのが『心でとどける。心をむすぶ。』というブランド・スローガンでしたね。」
 
柳原 「経営理念がちゃんと連想できるブランド・スローガンになったことが、なによりも良かったなあと思っています。それは、シンボルマークも同じ。なかなかそういう企業って少ないでしょう。」
 
藤田 「そうですね。本来はそうあるべきなんですけどね。柳原さんの場合は強い理念があったから、シンボルマークに関してもビジュアルにしやすかったですよ。本質は、『とどける、むすぶ、ひろがる』ですから。」
 
柳原 「それにしても、こんな風に3つのビジュアルが重なったシンボルマークにするっていうのは藤田さん、うまいこと考えましたよね。正直いっちゃうと、最初に見たときから『これだ!』って直感してたんですよ。」
 
藤田 「本当ですか。確かに、シンボルマークというとひとつだけで表現されている方が印象が強いかもしれないですね。でも僕は、柳原さんの取組まれていることって、とてもひとつじゃ表せないと感じたんです。」
 
柳原 「まさにそうですね。3つのビジュアルを組み合わせるのはうちの経営理念にぴったりですよ。」
 
藤田 「それから、3つの組み合わせだけじゃなくて、真ん中のひとつだけでもシンボルとして使えるようにしたのも新しかったのかもしれません。柳原新聞店のCIは、デザイン業界でも高い評価をいただいて、デザイン賞をはじめ多くの書籍にも掲載させていただきました。」
 
柳原 「そうでしたね。僕も、報告を受けるたびにとても誇らしい気持ちになりました。」
 
藤田 「『CIとはマークを新しくすること』と理解されることが多いのですが、その本質は『企業文化を高め、顧客をはじめとする関係者や企業、社会とよりよい関係を築くこと』が目的です。MI(※2)(考え方や理念の統一)、BI(※3)(行動の統一)、VI(※4)(視覚の統一)の3つの要素がそろって、CIが生み出されます。つまり、理念を分かりやすく親しみやすい言葉にしたり、シンボルマークを分かりやすいカタチにして効果的に使ったりすることで、社会の中に浸透させていくことが大切なんですね。」
 
柳原 「なるほど。確かに、シンボルマークができたことで、理念がスタッフにも浸透し、会社として向かうべき方向がはっきりしました。それに、スタッフだけじゃなく、お客様や周りにも浸透したのか、うちの会社を理解して評価してくれる人がとても増えました。それって、すごく幸せなことです。」
 
藤田 「『幸せ』、それは僕にとってもありがたい言葉です。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.2 社名を変えるという決断
 
柳原 「その後、藤田さんにはスマイルスタッフ(※5)や、アクル(※6)、ファーブル(※7)といった新規事業についても、ネーミングやロゴマークをつくっていただきましたね。」
 
藤田 「それぞれに時間はかかりました。ネーミングやロゴマークは、『柳原新聞店』というブランドとの係わりや、それぞれの会社や事業がスタッフやお客様に明確な存在意義を感得していただいてはじめて意味を持つものなので。シンボルマークやロゴマーク、ロゴタイプは、お客様を巻き込みつつ、パーソナリティや明確なイメージを正しく伝えることで認識され、感得される知的資産ですから。」
 
柳原 「おっしゃる通り。藤田さんはそういった見えない部分までしっかり考えてくださるから信頼できるんですよ。できあがったデザインも、どれも期待通りで満足していますし。」
 
藤田 「いやぁ、ありがとうございます。柳原さんの熱い想いを知っていたからこそ、こちらもそれに応えたいという気持ちが大きくなるんですよ。さて、次に社名変更(2015年)のお話をお伺いしたいんですが・・・。」
 
柳原 「ええ。新規事業も少しずつ軌道に乗り、いよいよ『新聞配達業』という括りではおさまらなくなってきたことが大きくて、社名変更を考えたわけです。」
 
藤田 「あのとき、柳原さんが『社名変更はするけど、ブランド・スローガンとシンボルマークは気に入ってるから残したい』とおっしゃってくださったこと、嬉しかったですねえ。」
 
柳原 「ははは。だって、このふたつは我々の経営理念そのものだから。社名を変えるとなった時でも、やっぱり変えたくなかったんですよ。」
 
藤田 「社名変更の時には、社内でも特別にプロジェクトを立ち上げられたとお聞きしましたが。」
 
柳原 「ええ。最初は私ひとりで考えていました。でも、会社としてスタッフが主体的に考え、共有してゆくことで、自分たちがこれからどうあるべきか、『2020年の私たち』と題して何度も何度も話し合いましたよ。ビジョンや文化のない会社では価値は伝わりませんから。」
 
藤田 「社名を変えると決めたとき、スタッフのみなさんの反応はどうだったんですか?」
 
柳原 「うーん、最初は反対の声も多かったですねぇ。せっかく浸透してる名前を変えるのはどうか?と。でもね、時代が大きく変わっていくことも事実。今まで通りの新聞店ではなく、新規事業も含めた当社のブランド価値を認識してもらうためには、社名を変えることが必須なんだとスタッフには伝えました。理解してもらうのに時間はかかりましたけど、これから先も選ばれるために何を変え、何をプラスしてゆけば良いかとことん話し合うことで、やるべきことがより具体化されて、やっとふみきることができたんです。」
 
藤田 「貴重な時間だったんですね。社内プロジェクトで議論されたレポートをいただいたので、じっくり読み込み、こちらも時間をかけてネーミングをご提案させていただきました。最終的に決まったのが『アウンズ・ヤナギハラ』でしたね。」
 
柳原 「はい。新聞店を外した社名にしたかった。本当は『ヤナギハラ』も外したかったんですけどね。でもそれは今じゃない。今はまだ、先代から50年以上地元に愛されてきた『柳原新聞店』の『ヤナギハラ』がないと、どこのだれなのか分からなくなってしまうような気がして。」
 
藤田 「そういった、財産を引き継ぐことは実はすごく大事ですよ。そしたら、今後は『アウンズ』だけになるなんてことも?」
 
柳原 「あるんじゃないかな。そのうち『ヤナギハラ』と同じくらい『アウンズ』が認知されていけば、将来的には『アウンズ』だけにしたいっていうのが僕の希望です。『アウンズ浜松』とか、『アウンズ横浜』とか、そういうカタチで展開できればなあと思っています。」
 
藤田 「それは僕も楽しみです。ちなみに今現在、社名変更してから2年ぐらい経ちますが、評判はいかがですか?」
 
柳原 「評判?すっごくいいですよ。『アウンズ』という言葉がだんだん浸透してきているんじゃないかなあ。最初の頃は、『アウンズってどういう意味ですか?』とよく聞かれました。そんなときは、『あ・うんの呼吸から来ていますよ』と説明すれば、みなさんすぐに『なるほど』と納得してくれましたよ。」
 
藤田 「そうでしたか。社名変更のタイミングで、コミュニケーション展開もさらに広げましたよね。名刺や封筒、社屋の看板はもちろん、バス広告とか、スタッフジャンパーなどのツールも制作しました。周りの目に触れる機会も増えたんじゃないでしょうか?」
 
柳原 「ええ。そうなんです。新聞販売店というと、伝え方や表現がどこも一緒になってしまうけど、我々は、自分たちらしいシンボルマークやスローガンでわかりやすく伝えていくことができる。同じ業界の中でも、他とは違うということを明確に打ち出しているから、それが新鮮だと言ってもらえます。」
 
藤田 「『差異化』ですね。」
 
柳原 「はい。でも、だからといって差異化は、マークをつくれば自動的にできるということじゃない。このマークには、ちゃんと理念が見えるから伝わった。理念をカタチに落とし込めたんです。」
 
藤田 「おっしゃる通りです。柳原さんは、理念をカタチにすることの大切さと難しさを理解してくださっているから嬉しいです。意味があるカタチじゃないと伝わらないですからね。これは、デザイナーとして常に大切にしていることのひとつです。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.3 答えはお客様の中に
 
藤田 「『生活情報サービス業』から、今は『ホスピタリティ流通業』へ。先ほどからもお話に出ている、事業展開の広がりを想像させますね。」
 
柳原 「これもやっぱり、シンボルマークやブランド・スローガンの力が大きいですよ。うちは、超地域密着型カルチャーサロンや情報誌の発行、地域ポータルサイトの運営、食品宅配事業や困りごと相談の生活サポート事業、機能訓練専門のデイサービスの事業展開もブランド・スローガンの通りやっているだけです。」
 
藤田 「なるほど。『ひととひと。ひととモノ。ひとと暮らし。ひとと社会。そうしたかかわりの結び目として、送り手として、広く、きめ細やかにお役に立ちたい。あ・うんの呼吸で心ある流通のかたちをとどける』ということですね。」
 
柳原 「そう、そう。それも『心でとどける。心をむすぶ。』。これを軸に事業展開してるだけで、別のことをやっているわけではないから、より多角化しやすくなるんです。アウンズ・ヤナギハラの経営理念にのっとってやっているだけなんです。」
 
藤田 「まさにそうですね。アウンズ・ヤナギハラは、統一された意図を視覚的なメッセージにしてコミュニケーションをしっかり機能させている。トーンやマナーを守って企業のイメージを発信させている。それがたくさんのお客様との接点で重なって、ブランド構築につながっているのがわかります。ほんと!素晴らしいですね。」
 
柳原 「あっはは、またあ。もちろん新しい事業をやる難しさはありますけどね。でも、『我々はこの方向に行くんだ』という理念がブランド・スローガンとしてしっかり提示されているから、なんにもぶれなかった。会社が向かうべき方向性がしっかりしていれば、それらを実現するための手段はいくらでも考えることはできると思っています。」
 
藤田 「それは『戦略』と『戦術』の話ですね。戦略があって、その下に戦術があると。でも実行しなければ実現しない。いやぁ、ほんとに柳原さんの行動力はすごい!いつだったか、柳原さんが大切にしていることは『とにかくお客様の声をよく聞くこと』だとおっしゃっていて、度量が大きい人だと感じました。いつお会いしても、ニコニコとおおらかな柳原さんのお人柄が伝わる言葉だなー、と印象的でした。」
 
柳原 「答えはお客様の中にありますからね。お客様が持っているちょっとしたひと言をうまく引き出して、答えとなるキーワードを見つけていく。クレームじゃなくてね。」
 
藤田 「デザイナーの仕事も、依頼主の声をよく聞くことからはじまります。相手の話をよく聞く。わからないことは質問して背景にあるものまで理解しておく。その上で、より良い状況をつくり出すためには、何をすればいいのか。魅力を印象的に伝えるにはどうすればいいのか。それを考えながら、課題を見つけ出し、解決の糸口を探し出す。僕は、それが『デザインの思考』だと思っています。そして、最終的にコンセプトやメッセージを視覚言語化して伝わる表現にするのが『デザインの手法』。『デザイン』は、この2つの行為があって成立するんです。デザインは目的ではなく、手段なのです。」
 
柳原 「価値は、相手の中に眠っているということですね。答えはお客様の中にある、それを見つけ出して、自分たちの磨き上げた価値と交換する。お互いが価値を交換し合うのがビジネスの根本だと思うよ。実際に、藤田さんのディレクションは心がこもっていたし、できあがったデザインも心に通じるものがあった。『デザインは目的ではなく、手段』。藤田さんらしいね。」
 
藤田 「今日お話を伺って改めて思ったことですが、シンボルマークを制作させていただいてから15年。柳原さんはじめスタッフのみなさん、お客様に愛され、育てられて、大きく羽ばたいているように思えます。これはデザイナーにとって何よりも幸せなことです。これからも永く愛されるマークでありますよう期待しています。今日はありがとうございました。」
 
柳原 「これからも私たちアウンズ・ヤナギハラは、お客様との関係性をさらに深めて、地域の方々の必要な時に必要な声にお応えできる、浜松になくてはならない会社へと進化してゆきます、必ず。藤田さんのおっしゃった『デザインは手段』、これからも上手く活用させてもらいます(笑)。」
 

2017年10月23日アウンズ・ヤナギハラにて
 
 
 
 
 
 
 

ブルックスタジオ制作実例
>アウンズ・ヤナギハラ
 

株式会社アウンズ・ヤナギハラ(旧 柳原新聞店)
 
1960年3月3日、新聞店として創業。2015年、創業55周年を節目に「ホスピタリティ流通業」としてさらなる進化・発展をするために社名変更。「心でとどける。心をむすぶ。」を合い言葉に、「新聞事業部」「カルチャー事業部」「食品宅配事業部」「健康介護事業部」と、さまざまな事業を展開している。
 
▶︎アウンズ・ヤナギハラ 情報ポータルサイト「まい〜か浜松」


※1)CI[コーポレート・アイデンティティ]:企業の社内意識と、社外からの企業イメージが、同一化された状態のこと。目標とする企業イメージを確立させ社会に伝えていき、企業のブランド価値や認知度を高めることで、企業の業績を向上させることがCIの役割である。また、企業内でもアイデンティティを確立・共有し、社員の心のよりどころや誇りとなる役割もある。
※2)MI[マインド・アイデンティティ]:企業理念や企業の方向性、考え方、ビジョンの統一化を図ること。 
※3)BI[ビヘイビア・アイデンティティ]:そこで働く人たちの行動、ふるまい、発言の統一化を図ること。
※4)VI[ビジュアル・アイデンティティ]:企業の視覚的要素のすべてをデザイン的に統一すること。
※5)スマイルスタッフ:アウンズ・ヤナギハラの社員のこと。常に笑顔を届けるために「社会との調和」、「人間力の発揮」、「お客様本位」を目標に掲げ、実践している。 
※6)アクル:機能訓練専門デイサービス「きたえるーむ」の運営。高齢社会における「クオリティオブライフ=生活の質」の向上に貢献している。
※7)ファーブル:農家さんの畑=ファームとご家庭のテーブルを結ぶ「ファーブル倶楽部」。栽培方法のこだわりや地産地消を目指して、旬の美味しいものをご家庭へお届けしている。