第5話 創業明治三十年、初代 守太郎の豆富造りの意思を守る
 
株式会社丸守 堀川 一裕(静岡県浜松市)

No.一粒の可能性を信じて
 
藤田 「丸守さんとの出会いは、遠州食品加工業協同組合主催の勉強会に講師としてお招きしていただいたのがきっかけでしたね。」
 
堀川 「ええ。藤田さんの講演の中で、“ブランドには『識別』という役割があり、他社との違いを分析して、顧客に対して自社の立場を明確にしていくことが必要である”というお話がありましたよね。それを聞いて、丸守は『識別』がされているんだろうか?という疑念が過りました。」
 
藤田 「今では店頭に、県外メーカーも含めて数多くの豆腐がありますからね。」
 
堀川 「そうなんですよ。それに、豆腐って日常的に食卓に上がるものだから、特別なものではないでしょ。でも味に対するお客様の要求は高くて、そこに豆腐屋としてのむずかしさがあるんですよ。」
 
藤田 「当時丸守さんは、地元スーパーを中心に販路を確保していましたよね。豆腐製造については長年の実績があるけれど、ブランド戦略については後回しになっていたんでしょうか。」
 
堀川 「おっしゃるとおりです。今思うと、それまではパッケージも単発的につくっていたので、商品が売り場に並んだ時にバラバラな印象になっていたんですね。」
 
藤田 「『丸守』として統一感を出していくことは、ブランディングにおいて大切なことですからね。」
 
堀川 「はい。今はその意味がよくわかります。丸守は明治三十年に豆腐屋を始めてもう百年以上になるんです。初代守太郎の豆腐造りの意思を守りつつも、時代の変化に対応してゆかなくてはなりません。五代目として会社の意識改革も必要な時期ではあったんですが、具体的に何をどうしたら良いかわからなかったんです。」
 
藤田 「『こうなりたい』って言うのは簡単でも、実現するのは難しいものです。」
 
堀川 「藤田さんに開口一番『自社で魅力がわからない商品を、どうやってお客様に認めてもらうんですか?必要なのは、丸守さんならではの魅力をしっかり打ち出すことですよ!』って、強烈な指摘をいただいたことを思い出します。このお言葉があったから余計に奮起しましたね。」
 
藤田 「そうでしたか。丸守さんの場合は、強みを明確にして、ターゲットを絞り込むことがポイントでした。そうして初めて差異化された一定の方向性が見つかるんだと思います。」
 
堀川 「藤田さんにも協力していただいて、まずは丸守の強みを分析しました。浜松における豆腐屋第一号の創業であること。初代守太郎の意思を守り続けていること。地元で百年以上愛されていること。それに、うちの商品の一番のこだわりは『豆腐』ではなく『豆富』として長年商売していること。一粒の可能性を信じて、それを十分に引き出し、豆から人を富ませる『豆富』だということでした。」
 
藤田 「そうですね。丸守さんには、『豆腐』ではなく『豆富』という強いこだわりがありました。地元で百年を超える老舗の豆富屋として、『一粒の可能性を信じて、それを十分に引き出す』という豆富づくりにかける思いは、充分に選ばれる価値を持っていると思いましたね。」
 
堀川 「丸守の強みをはっきりと自覚してからは、それをどう伝えていくか?が課題でしたね。ただ単に、見た目だけで惹きつければ良いというわけではないでしょうし。」
 
藤田 「そうなんです。よく、『デザイナーに依頼しても商品が売れない』なんて話を聞きますが、それは見た目が効果的なメッセージとして機能していないからだと思います。僕は、商品の価値を伝えるために、まずは情報を整理して本質的な価値を見つけてから、課題解決に向かう『売れるしくみ』を考えます。」
 
堀川 「確かに、藤田さんとの打ち合わせは、デザインよりも内側のことや市場性について話し合っている時間が長いですよね。」
 
藤田 「デザインは見た目や機能から問題を解決する手段なんです。まずは丸守さんの想いや背景を聞き取って、目的を確認することが第一です。」
 
堀川 「デザイナーさんはクリエイティブなお仕事だから、感覚的に仕事をされていると思っていましたけど、実はもっと地道で、論理的というか、科学的な思考が必要なんですね。」
 
藤田 「ははは、地道ですか。これは余談ですけど、『デザイン』って、語源を辿るとラテン語で『整理する』っていう意味があるんです。あらゆるモノやコトの関係を整理して、伝える情報を精査するのが『デザイン』だともいえるんです。」
 
堀川 「僕の中のイメージでは、『情報が伝わるしくみづくりの仕掛け人』とでもいうのかな?」
 
藤田 「『仕掛け人』ですか?」
 
堀川 「はい。藤田さんは常にさまざまなことに広くアンテナを張っていらっしゃるから、商品の見せ方だけでなく販売方法についても広い視野で見てくださいました。しくみから見直してもらえるなんて、初めは予想もしていなかったことです。新鮮で的確な視点が『仕掛け人』だなあと。少なくとも僕の目にはそう写りましたよ。」
 
藤田 「ありがとうございます。なんだが格好良くて照れ臭いですね。次は、具体的にブランドを再構築するきっかけとなった『濱松豆富』についてお話をしましょうか。」
 
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No.2 幻とよばれた豆富
 
藤田 「丸守のブランディングを始めるためには、3つの段階が必要でした。1つ目は『丸守』のことをお客様に知ってもらうこと。2つ目は、商品を通じて『丸守』というブランドを経験してもらうこと。そして3つ目は、『丸守は○○』というブランド連想をつくりだすこと。」
 
堀川 「こうやってお聞きすると難しく感じますが、藤田さんから『これぞ丸守!という商品をつくりましょう。』と提案していただいたのはこのためだったんですね。まずはターゲットの絞り込みをして、丸守らしい商品を考えることから始めました。課題は多かったけれど、やりがいも感じられましたよ。」
 
藤田 「そうですか。当時、『いくら良いものをつくっても、豆富はスーパーじゃ100円以上で売れないんだよ』とおっしゃっていましたね。確かに、ブランド・イメージが消費者に定着していないと価格競争に巻き込まれてしまいますが、安全や品質を重視している人は、多少高値でも買ってくれます。」
 
堀川 「つまり、ターゲットは、精神的な豊かさや生活の質の向上を最優先させるお客様ですね。」
 
藤田 「そうです。成熟社会となった今、食へのこだわりも千差万別です。質の良いものを吟味して食したいというお客様は必ずいるはずです。丸守の強みは百年の歴史があることですから、昔ながらの豆富を味わってもらうことで、丸守らしさを十分に伝えられるんじゃないかと。」
 
堀川 「それで、丸守=老舗のこだわり=生豆富というブランド連想をつくることになりました。生産を中止していた幻の『ざる豆富』を、『濱松豆富』として復活させました。」 
 
藤田 「500円で限定100食。期間限定、週に一回の完全予約販売ですね。」
 
堀川 「濱松豆富は、昔ながらの非加熱製法でつくる生豆富です。素材や水にこだわって、大豆本来の旨味を生かした手づくりならではの、本当のおいしさを味わってもらいたいという願いもありました。」
 
藤田 「僕も何度もいただいていますが、これが本当においしい。店頭には置かず、朝つくったものをその日のうちにお届けするという販売方法にもこだわりましたよね。」
 
堀川 「藤田さんの仕掛けで、地元で弁当宅配をされている『知久屋 ファーブル倶楽部』と連携して、予約注文・宅配の協力をしてもらいましたね。」
 
藤田 「知久屋さんのお弁当宅配のルートがあって、そこに老舗豆富屋の売り切りごめんの幻と呼ばれた『ざる豆富』を『浜松豆富』としてアプローチ。これはきっとターゲットに届くんじゃないかという予感がありました。」
 
堀川 「宅配で一度召し上がったお客様から、『今年はいつですか?』というお問い合わせをいただくこともあるんですよ。」
 
藤田 「期間限定だから、待っていて下さる訳ですね。」
 
堀川 「そうなんです。魅力を磨いて発信すると、『欲しい』と思っていただけるんですね。『濱松豆富』は、『丸守』というブランド・イメージを上げるためにとても効果があったと思っています。それに、濱松豆富の中に小さなリーフレットを入れたことも、リピーターの獲得につながったと思っています。」
 
藤田 「『お待たせいたしました』という文章を表紙に入れた二つ折りのリーフレットですね。僕がこだわったのは、売れるための『しくみ』の部分です。『届けるしくみ』だけがあっても、『欲しい』と思ってもらわなければ売れないですし、もちろんチラシの表現だけでも売れません。デザインと言うと表面だけだと思われがちですが、機能する『しくみ』と『魅力的な表現』の両方がないと『売れる』はつくり出せないと思います。」
 
堀川 「なるほど。販売戦略を考えるとき、『斬新なデザインで売上をアップ』と考えがちですが、じわりじわり浸透して永く愛されるような商品づくりが、当社らしいやり方だと思います。『濱松豆富』の後にもさまざまな商品のお手伝いをしていただきましたが、色んな『仕掛け』が生まれましたね。たとえば、『ぶっかけゆば丼』も。」
 
藤田 「そうですね。ゆばの新商品をつくるということで、最初は生ゆばとか、刺身ゆばを考えていたんですよね。」
 
堀川 「僕が何気なく、ゆばに入っている豆乳をご飯に絡めて食べるとおいしいんだよって話をしたら、藤田さんが飛びついて『それだ!』と。」
 
藤田 「沼津市の小学生から直筆のお手紙をいただいたんですよね。『丸守さんのゆばはとてもおいしい』って。」
 
堀川 「あれはうれしくて涙が出ました。」
 
藤田 「うれしいですよね。そういうお客様がいるんですよ。一般的な尺度で考えたら、ゆばは品のいい高級品。『お豆富屋さんが丁寧に、丁寧につくったゆばをぶっかけて食べるなんて・・・!』という気持ちがありますよね。でも、ゆばは栄養もあるし、本来、気兼ねなく食べたいというのも、食べる側のニーズとしてあるんじゃないかなと思ったんです。」
 
堀川 「なるほど。戸惑いはありましたけど、丸守としては、食べ方はどうあれ、『おいしい』と喜んでもらえるのが一番です。お客様のニーズをより正確にキャッチする必要があるなと、改めて思いました。今の時代、新しく柔軟に発想の幅を広げてゆかないと将来は先細るだけですよね。」
 
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No.3 人と人との仕事
 
藤田 「デザイナーは、安全でおいしい商品はつくれませんが、それを嘘のないように伝えることが仕事です。どんな人が、どんな思いでつくっているのかという部分は、消費者は無意識に気付いて、見抜いていると思うんです。」
 
堀川 「そうかもしれませんね。丸守としても、もっともっと進歩していかなければと感じます。藤田さんと一緒にお仕事をするようになって3年、毎年新しい取り組みにチャレンジしていますが、目標があるから充実していて、楽しいんですよ。」
 
藤田 「そう言ってもらうとやりがいがあります。コンスタントに新商品を生み出しているということも、丸守さんのブランド・イメージにつながるメッセージになるはずです。」
 
堀川 「そうですね。消費者は目新しい商品に敏感ですからね。」
 
藤田 「それから、丸守さんは、様々なライフスタイルや価値観をもつお客様をひとくくりにせず、ターゲットを絞られたことが良かったと思います。ターゲットを絞って、具体的に見えてくることがあったんじゃないですか?」
 
堀川 「そうですね。それまではつくり手としての思い込みや既成概念にとらわれすぎていたのかもしれませんね。意識して洞察していくと色んなことが見えてきました。」
 
藤田 「『見る』と『見えている』は違うんです。ターゲットを絞って終わりじゃないですよ。」
 
堀川 「ははは、鋭いなあ。藤田さんはいつもこうしてはっきり意見を言ってくれる。だから信頼できるんですよ。」
 
藤田 「信頼いただいて・・・ありがとうございます。僕は、ブランディングの際はとくに決定権のある人と直接お話しすることを重視しているんです。ブランディングには多くの意思決定を要しますからね。だからこそ、耳がいたい話でも、言うべきことは言うようにしているんです。でも、もし本当に失礼があったらすみません・・・。」
 
堀川 「いやいや!実は、それを期待しているんですよ。いいものをつくるためにはお互いの意見をしっかり伝え合わないと。藤田さんとはそういう積み重ねで今があると思っています。」
 
藤田 「ありがとうございます。僕は仕事をする上で、『御用聞き』のような立場ではなく、常に横並びの関係でいたいと思っています。どうすれば目的を達成できるか、クライアントとは違う視点で向き合って一緒に考えていく。そのような仕事の仕方をしたいと思っています。」
 
堀川 「こちらも、そうありたいですよ。お互いの違いを認め合える関係だから、気づきがあるのだと思いますね。」
 
藤田 「そうですね。」
 
堀川 「『丸守』の本質を充分理解してくれているからこそ、常に近い距離で話を聞いて、同じ目線で考えてくれる。極端な話、途中で藤田さんがデザイナーだってことを忘れてしまうくらい、色んなことを相談してしまうことも(笑)。具体的なデザインを提案してくださるのはいつも最後の最後ですもんね。」
 
藤田 「ははは、そうかもしれませんね。先ほども言いましたが、『どういうデザインが良いか』ではなくて、商品が売れるためにどうするか、『しくみ』の部分から考えるんです。丸守さんの言葉を借りれば『仕掛け人』ですね。“丸守ってこういう会社で、こういう価値観を持っているよね。そんな丸守がつくる商品をどう見せてゆくのが効果的なんだろう?”商品開発だけでなくパンフレットやWEBなどの販促ツールを提案するときも同じです。」
 
堀川 「そういう視点で丸守を見守ってくださっているというのは、本当にありがたいです。たとえば、『これはどうかなあ・・・』と半信半疑に思っていたものでも、藤田さんが『いいね』と言って下さると、『そう言うならやってみよう』と、不思議と前向きになれることがありますよ。実際、予想以上に売上を伸ばした商品も生まれました。」
 
藤田 「そうですか。良かった。」
 
堀川 「これからも、『ここの豆富なら安心だ』と言われるよう、お客様の想いを汲み取ったおいしい豆富を造っていきたいと思います。」
 
藤田 「ブランディングは、一過性のものではありませんから、丸守さんが豆富をつくり続ける限り、ずっと続けていって下さいね。」
 
堀川 「そうですね。一緒にお仕事をして3年。この先もずっと一緒に仕事をしたいと思える人と出会えたことに感謝しています。仕事は人と人がするものですから。これからも変わらずお付き合いお願いしますね。」
 
藤田 「こちらこそ。丸守さんの豆富は本物ですから、きちんと丁寧に伝えていくお手伝いを続けていきたいと思っています。それに、僕自身も『この人にこそ任せたい』と言っていただけるようなデザイナー・・・『仕掛け人』として精進したいと思います。」
 
2017年11月16日丸守にて
 
 
 
 

No.一粒の可能性を信じて
 
藤田 「丸守さんとの出会いは、遠州食品加工業協同組合主催の勉強会に講師としてお招きしていただいたのがきっかけでしたね。」
 
堀川 「ええ。藤田さんの講演の中で、“ブランドには『識別』という役割があり、他社との違いを分析して、顧客に対して自社の立場を明確にしていくことが必要である”というお話がありましたよね。それを聞いて、丸守は『識別』がされているんだろうか?という疑念が過りました。」
 
藤田 「今では店頭に、県外メーカーも含めて数多くの豆腐がありますからね。」
 
堀川 「そうなんですよ。それに、豆腐って日常的に食卓に上がるものだから、特別なものではないでしょ。でも味に対するお客様の要求は高くて、そこに豆腐屋としてのむずかしさがあるんですよ。」
 
藤田 「当時丸守さんは、地元スーパーを中心に販路を確保していましたよね。豆腐製造については長年の実績があるけれど、ブランド戦略については後回しになっていたんでしょうか。」
 
堀川 「おっしゃるとおりです。今思うと、それまではパッケージも単発的につくっていたので、商品が売り場に並んだ時にバラバラな印象になっていたんですね。」
 
藤田 「『丸守』として統一感を出していくことは、ブランディングにおいて大切なことですからね。」
 
堀川 「はい。今はその意味がよくわかります。丸守は明治三十年に豆腐屋を始めてもう百年以上になるんです。初代守太郎の豆腐造りの意思を守りつつも、時代の変化に対応してゆかなくてはなりません。五代目として会社の意識改革も必要な時期ではあったんですが、具体的に何をどうしたら良いかわからなかったんです。」
 
藤田 「『こうなりたい』って言うのは簡単でも、実現するのは難しいものです。」
 
堀川 「藤田さんに開口一番『自社で魅力がわからない商品を、どうやってお客様に認めてもらうんですか?必要なのは、丸守さんならではの魅力をしっかり打ち出すことですよ!』って、強烈な指摘をいただいたことを思い出します。このお言葉があったから余計に奮起しましたね。」
 
藤田 「そうでしたか。丸守さんの場合は、強みを明確にして、ターゲットを絞り込むことがポイントでした。そうして初めて差異化された一定の方向性が見つかるんだと思います。」
 
堀川 「藤田さんにも協力していただいて、まずは丸守の強みを分析しました。浜松における豆腐屋第一号の創業であること。初代守太郎の意思を守り続けていること。地元で百年以上愛されていること。それに、うちの商品の一番のこだわりは『豆腐』ではなく『豆富』として長年商売していること。一粒の可能性を信じて、それを十分に引き出し、豆から人を富ませる『豆富』だということでした。」
 
藤田 「そうですね。丸守さんには、『豆腐』ではなく『豆富』という強いこだわりがありました。地元で百年を超える老舗の豆富屋として、『一粒の可能性を信じて、それを十分に引き出す』という豆富づくりにかける思いは、充分に選ばれる価値を持っていると思いましたね。」
 
堀川 「丸守の強みをはっきりと自覚してからは、それをどう伝えていくか?が課題でしたね。ただ単に、見た目だけで惹きつければ良いというわけではないでしょうし。」
 
藤田 「そうなんです。よく、『デザイナーに依頼しても商品が売れない』なんて話を聞きますが、それは見た目が効果的なメッセージとして機能していないからだと思います。僕は、商品の価値を伝えるために、まずは情報を整理して本質的な価値を見つけてから、課題解決に向かう『売れるしくみ』を考えます。」
 
堀川 「確かに、藤田さんとの打ち合わせは、デザインよりも内側のことや市場性について話し合っている時間が長いですよね。」
 
藤田 「デザインは見た目や機能から問題を解決する手段なんです。まずは丸守さんの想いや背景を聞き取って、目的を確認することが第一です。」
 
堀川 「デザイナーさんはクリエイティブなお仕事だから、感覚的に仕事をされていると思っていましたけど、実はもっと地道で、論理的というか、科学的な思考が必要なんですね。」
 
藤田 「ははは、地道ですか。これは余談ですけど、『デザイン』って、語源を辿るとラテン語で『整理する』っていう意味があるんです。あらゆるモノやコトの関係を整理して、伝える情報を精査するのが『デザイン』だともいえるんです。」
 
堀川 「僕の中のイメージでは、『情報が伝わるしくみづくりの仕掛け人』とでもいうのかな?」
 
藤田 「『仕掛け人』ですか?」
 
堀川 「はい。藤田さんは常にさまざまなことに広くアンテナを張っていらっしゃるから、商品の見せ方だけでなく販売方法についても広い視野で見てくださいました。しくみから見直してもらえるなんて、初めは予想もしていなかったことです。新鮮で的確な視点が『仕掛け人』だなあと。少なくとも僕の目にはそう写りましたよ。」
 
藤田 「ありがとうございます。なんだが格好良くて照れ臭いですね。次は、具体的にブランドを再構築するきっかけとなった『濱松豆富』についてお話をしましょうか。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 
 
 

No.2 幻とよばれた豆富
 
藤田 「丸守のブランディングを始めるためには、3つの段階が必要でした。1つ目は『丸守』のことをお客様に知ってもらうこと。2つ目は、商品を通じて『丸守』というブランドを経験してもらうこと。そして3つ目は、『丸守は○○』というブランド連想をつくりだすこと。」
 
堀川 「こうやってお聞きすると難しく感じますが、藤田さんから『これぞ丸守!という商品をつくりましょう。』と提案していただいたのはこのためだったんですね。まずはターゲットの絞り込みをして、丸守らしい商品を考えることから始めました。課題は多かったけれど、やりがいも感じられましたよ。」
 
藤田 「そうですか。当時、『いくら良いものをつくっても、豆富はスーパーじゃ100円以上で売れないんだよ』とおっしゃっていましたね。確かに、ブランド・イメージが消費者に定着していないと価格競争に巻き込まれてしまいますが、安全や品質を重視している人は、多少高値でも買ってくれます。」
 
堀川 「つまり、ターゲットは、精神的な豊かさや生活の質の向上を最優先させるお客様ですね。」
 
藤田 「そうです。成熟社会となった今、食へのこだわりも千差万別です。質の良いものを吟味して食したいというお客様は必ずいるはずです。丸守の強みは百年の歴史があることですから、昔ながらの豆富を味わってもらうことで、丸守らしさを十分に伝えられるんじゃないかと。」
 
堀川 「それで、丸守=老舗のこだわり=生豆富というブランド連想をつくることになりました。生産を中止していた幻の『ざる豆富』を、『濱松豆富』として復活させました。」 
 
藤田 「500円で限定100食。期間限定、週に一回の完全予約販売ですね。」
 
堀川 「濱松豆富は、昔ながらの非加熱製法でつくる生豆富です。素材や水にこだわって、大豆本来の旨味を生かした手づくりならではの、本当のおいしさを味わってもらいたいという願いもありました。」
 
藤田 「僕も何度もいただいていますが、これが本当においしい。店頭には置かず、朝つくったものをその日のうちにお届けするという販売方法にもこだわりましたよね。」
 
堀川 「藤田さんの仕掛けで、地元で弁当宅配をされている『知久屋 ファーブル倶楽部』と連携して、予約注文・宅配の協力をしてもらいましたね。」
 
藤田 「知久屋さんのお弁当宅配のルートがあって、そこに老舗豆富屋の売り切りごめんの幻と呼ばれた『ざる豆富』を『浜松豆富』としてアプローチ。これはきっとターゲットに届くんじゃないかという予感がありました。」
 
堀川 「宅配で一度召し上がったお客様から、『今年はいつですか?』というお問い合わせをいただくこともあるんですよ。」
 
藤田 「期間限定だから、待っていて下さる訳ですね。」
 
堀川 「そうなんです。魅力を磨いて発信すると、『欲しい』と思っていただけるんですね。『濱松豆富』は、『丸守』というブランド・イメージを上げるためにとても効果があったと思っています。それに、濱松豆富の中に小さなリーフレットを入れたことも、リピーターの獲得につながったと思っています。」
 
藤田 「『お待たせいたしました』という文章を表紙に入れた二つ折りのリーフレットですね。僕がこだわったのは、売れるための『しくみ』の部分です。『届けるしくみ』だけがあっても、『欲しい』と思ってもらわなければ売れないですし、もちろんチラシの表現だけでも売れません。デザインと言うと表面だけだと思われがちですが、機能する『しくみ』と『魅力的な表現』の両方がないと『売れる』はつくり出せないと思います。」
 
堀川 「なるほど。販売戦略を考えるとき、『斬新なデザインで売上をアップ』と考えがちですが、じわりじわり浸透して永く愛されるような商品づくりが、当社らしいやり方だと思います。『濱松豆富』の後にもさまざまな商品のお手伝いをしていただきましたが、色んな『仕掛け』が生まれましたね。たとえば、『ぶっかけゆば丼』も。」
 
藤田 「そうですね。ゆばの新商品をつくるということで、最初は生ゆばとか、刺身ゆばを考えていたんですよね。」
 
堀川 「僕が何気なく、ゆばに入っている豆乳をご飯に絡めて食べるとおいしいんだよって話をしたら、藤田さんが飛びついて『それだ!』と。」
 
藤田 「沼津市の小学生から直筆のお手紙をいただいたんですよね。『丸守さんのゆばはとてもおいしい』って。」
 
堀川 「あれはうれしくて涙が出ました。」
 
藤田 「うれしいですよね。そういうお客様がいるんですよ。一般的な尺度で考えたら、ゆばは品のいい高級品。『お豆富屋さんが丁寧に、丁寧につくったゆばをぶっかけて食べるなんて・・・!』という気持ちがありますよね。でも、ゆばは栄養もあるし、本来、気兼ねなく食べたいというのも、食べる側のニーズとしてあるんじゃないかなと思ったんです。」
 
堀川 「なるほど。戸惑いはありましたけど、丸守としては、食べ方はどうあれ、『おいしい』と喜んでもらえるのが一番です。お客様のニーズをより正確にキャッチする必要があるなと、改めて思いました。今の時代、新しく柔軟に発想の幅を広げてゆかないと将来は先細るだけですよね。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.3 人と人との仕事
 
藤田 「デザイナーは、安全でおいしい商品はつくれませんが、それを嘘のないように伝えることが仕事です。どんな人が、どんな思いでつくっているのかという部分は、消費者は無意識に気付いて、見抜いていると思うんです。」
 
堀川 「そうかもしれませんね。丸守としても、もっともっと進歩していかなければと感じます。藤田さんと一緒にお仕事をするようになって3年、毎年新しい取り組みにチャレンジしていますが、目標があるから充実していて、楽しいんですよ。」
 
藤田 「そう言ってもらうとやりがいがあります。コンスタントに新商品を生み出しているということも、丸守さんのブランド・イメージにつながるメッセージになるはずです。」
 
堀川 「そうですね。消費者は目新しい商品に敏感ですからね。」
 
藤田 「それから、丸守さんは、様々なライフスタイルや価値観をもつお客様をひとくくりにせず、ターゲットを絞られたことが良かったと思います。ターゲットを絞って、具体的に見えてくることがあったんじゃないですか?」
 
堀川 「そうですね。それまではつくり手としての思い込みや既成概念にとらわれすぎていたのかもしれませんね。意識して洞察していくと色んなことが見えてきました。」
 
藤田 「『見る』と『見えている』は違うんです。ターゲットを絞って終わりじゃないですよ。」
 
堀川 「ははは、鋭いなあ。藤田さんはいつもこうしてはっきり意見を言ってくれる。だから信頼できるんですよ。」
 
藤田 「信頼いただいて・・・ありがとうございます。僕は、ブランディングの際はとくに決定権のある人と直接お話しすることを重視しているんです。ブランディングには多くの意思決定を要しますからね。だからこそ、耳がいたい話でも、言うべきことは言うようにしているんです。でも、もし本当に失礼があったらすみません・・・。」
 
堀川 「いやいや!実は、それを期待しているんですよ。いいものをつくるためにはお互いの意見をしっかり伝え合わないと。藤田さんとはそういう積み重ねで今があると思っています。」
 
藤田 「ありがとうございます。僕は仕事をする上で、『御用聞き』のような立場ではなく、常に横並びの関係でいたいと思っています。どうすれば目的を達成できるか、クライアントとは違う視点で向き合って一緒に考えていく。そのような仕事の仕方をしたいと思っています。」
 
堀川 「こちらも、そうありたいですよ。お互いの違いを認め合える関係だから、気づきがあるのだと思いますね。」
 
藤田 「そうですね。」
 
堀川 「『丸守』の本質を充分理解してくれているからこそ、常に近い距離で話を聞いて、同じ目線で考えてくれる。極端な話、途中で藤田さんがデザイナーだってことを忘れてしまうくらい、色んなことを相談してしまうことも(笑)。具体的なデザインを提案してくださるのはいつも最後の最後ですもんね。」
 
藤田 「ははは、そうかもしれませんね。先ほども言いましたが、『どういうデザインが良いか』ではなくて、商品が売れるためにどうするか、『しくみ』の部分から考えるんです。丸守さんの言葉を借りれば『仕掛け人』ですね。“丸守ってこういう会社で、こういう価値観を持っているよね。そんな丸守がつくる商品をどう見せてゆくのが効果的なんだろう?”商品開発だけでなくパンフレットやWEBなどの販促ツールを提案するときも同じです。」
 
堀川 「そういう視点で丸守を見守ってくださっているというのは、本当にありがたいです。たとえば、『これはどうかなあ・・・』と半信半疑に思っていたものでも、藤田さんが『いいね』と言って下さると、『そう言うならやってみよう』と、不思議と前向きになれることがありますよ。実際、予想以上に売上を伸ばした商品も生まれました。」
 
藤田 「そうですか。良かった。」
 
堀川 「これからも、『ここの豆富なら安心だ』と言われるよう、お客様の想いを汲み取ったおいしい豆富を造っていきたいと思います。」
 
藤田 「ブランディングは、一過性のものではありませんから、丸守さんが豆富をつくり続ける限り、ずっと続けていって下さいね。」
 
堀川 「そうですね。一緒にお仕事をして3年。この先もずっと一緒に仕事をしたいと思える人と出会えたことに感謝しています。仕事は人と人がするものですから。これからも変わらずお付き合いお願いしますね。」
 
藤田 「こちらこそ。丸守さんの豆富は本物ですから、きちんと丁寧に伝えていくお手伝いを続けていきたいと思っています。それに、僕自身も『この人にこそ任せたい』と言っていただけるようなデザイナー・・・『仕掛け人』として精進したいと思います。」
 
2017年11月16日丸守にて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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株式会社丸守
 
創業明治三十年、初代 守太郎のこだわりを守る浜松の豆富屋。有玉西町に工場を構え、南アルプス最南端の水脈の雪解け水を敷地内地下約300メートルからくみ上げ、豆富づくりの全行程に使用しています。水、大豆、にがり、そして安心・安全にこだわった豆富づくりをしています。
 
▶︎株式会社丸守ホームページ