第7話 産学官連携をデザインする
 
遠州食品加工業協同組合/株式会社魚秀 岡安 俊成(静岡県浜松市)

No.学生にデザインを教える
 
藤田 「遠食(遠州食品加工業協同組合)さんとは産学官連携の取り組みでお世話になっています。」
 
岡安 「こちらこそ。浜松デザインカレッジの学生さんと共通認識を持ち、活動のベクトルを合わせる産学官連携では、若い世代の感性やアイデアを身近に感じることができて刺激になりました。こうして学生さんに教えるようになってから、もう長いのですか?」
 
藤田 「10年ほど前からですね。2008年に浜松デザインカレッジが開校する際に、『実践でやっている方にぜひ、講師をお願いしたい』とお話をいただいたんですよ。」
 
岡安 「そうでしたか。実践で長く仕事をされている方の生の声こそ学生には必要なんでしょうね。講師の立場としてデザインを学生に教えるというのはいかがですか?」
 
藤田 「うーん・・・。教えるっていうのは、特に教える仕事ではなくても、自分の子ども、後輩、部下を教えることはありますよね。ある意味、全ての人に必要な技能だと思うんですよ。僕の場合は、今までやってきたことを整理して学生に伝えるようにしています。普段、自分がデザインを生み出すプロセスや方法論を改めて整理しているという感じでしょうか。大変なことではあるけれど自分にとっても良い経験になっていると思います。」
 
岡安 「それは実践だけではなかなかできない経験だと思います。僕もそうですが、自分の仕事は当たり前と思ってやっているので、意識しないで取り組んでいることが多々ありますよね。経験や熟練は、時に先入観や間違った前提をつくってしまいがち。初心に戻って手法や手順を見直すこともまた大切です。」
 
藤田 「確かにそうですね。学生に教えるようになってから気付いたこともたくさんありましたよ。例えば、デザインには3つの段階があるんですが、デザインを学ぶ学生があまり理解できていないことが分かったんです。」
 
岡安 「3つの段階ですか?」
 
藤田 「はい。一つ目はモノやコトの『本質』、二つ目はそれを組み立てていくための『仕組み』、そして最後に、ビジュアルとして表出される『形態』です。」
 
岡安 「へぇー。デザインは『形態』のイメージが強いので、感性で絵を描いたり、カタチを美しく見せたりするスキルが問われるんだろうなと、つい思ってしまいます…。その前段階として『本質』と『仕組み』があるわけですね。」
 
藤田 「その通りです。『形態』は、『本質』を『仕組み』でつなげることで初めてカタチになる。僕は、『デザイン』という言葉を名詞ではなく動詞だと捉えています。もちろん、感性や個性に頼る部分もありますが、表現の技術だけで成立するのではなくて、目的に辿り着くまでの『考え方』まで含まれているのがデザインだと思うんです。」
 
岡安 「なるほど。つまり藤田さんは、学生さんにデザインの考え方を教えていらっしゃるんですね。」
 
藤田 「はい。それを目標としてやっています。よく『私はあの子より絵が下手だから』と落ち込む学生がいますが、そういった理由で挫折をしてほしくない。表現だけじゃなくて、計画する部分に個性が出るのがデザイナーなのかもしれません。」
 
岡安 「確かに、学生さんたちのプレゼンテーションの言葉は、デザイナーじゃない私が聞いていても共有できますからね。」
 
藤田 「そうなんです!デザインの良いところは、そこにあると思っています。基礎的なデザインの技術は、考え方を言葉で説明できるもの。そのために、『誰が』『誰に』『何を』をよく考えて、人の気持ちを動かすようなものを生み出してゆかなければなりません。」
 
岡安 「ああ、だから藤田さんは、『誰が』『誰に』『何を』の部分を丁寧に考えるような授業をされているんですね。今のお話をお聞きして納得しましたよ。」
 
藤田 「ありがとうございます。デザイナーは課題解決のために、あるストーリーに基づいて情報を再構築して表現に定着させる。学生には、実践のプロセスを通してデザインという行為の『気づき』を実感してほしいと思っています。学生にとって産学官連携は、社会に出る前の実践の場として、とても貴重な体験です。」
 
岡安 「学生さんたちが実践を通して得た『気づき』を社会に発信して、機能させていくことで、デザインの価値も高められていくんでしょうね。学生さんたちの未来に大いに期待したいですね。」
 
藤田 「そうですね。デザインを学ぶ学生はこの先、社会をより良いものにするために活躍してもらいたい人たちです。どんな仕事をするのにも、物事の本質を捉えるという視点は重要なんです。デザインで企業や商品の価値を高めてくれる人を育て、社会に送り出す責任も感じています。」
 
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No.2 役割りの違うものを連携させる
 
岡安 「遠州食品加工業協同組合(遠食)を設立した当時、ブランド・マークをつくりたいと思っても、どこに頼んだらよいのか分かりませんでした。そんな時に持ち上がったのが産学官連携のプロジェクト。藤田さんに携わっていただいて、学生さんに参加してもらうことで、若い人の興味や感性も知ることができ、我々も勉強になることばかりでした。」
 
藤田 「専門学校は各分野のスペシャリストを育成する実践教育の場。学生にとっても、企業からの要望に応え、社会の中でデザインをどう機能させるかを実践的に学ぶことは、将来につながる重要な体験です。またとない機会を与えていただき、心から感謝しています。」
 
岡安 「専門学校の学生さんには若いセンスとアイデアがある。さらに、デザインの社会性を知り、実際に商品開発を体感したいという欲求がある。一方の企業には商品開発力と販売力を高めたいという切実な思いがある。これら二つを藤田さんの専門性が上手く結び付けた。シーズとニーズが手をつないで動き出し、互いに刺激し合いながら進んでいったのではないでしょうか。藤田さんが産学官連携のキーマンでしたね。」
 
藤田 「社会の中で役割の違うものが連携して社会の経済活動に繋がるようなことができないか?と考えたのが遠食さんとの産学官連携のはじまり。最初は『遠食』のブランド・マークをつくるという課題でした。」
 
岡安 「『遠食』は、遠州地域の食文化の伝承と食品産業の発展を目的として、2013年6月に設立した組合です。CIの開発のパートナーとして、学生さんとのコラボレーションを藤田さんにお願いしました。」
 
藤田 「社会の中に、『遠食』という存在をどんなイメージで訴求していけばいいのかを考え、その基点となるようなブランド・マークをつくるのが学生たちの課題でした。」
 
岡安 「中間プレゼン、そして最終プレゼンに立ち合わせていただき、『ああ、デザインってこうやってカタチになっていくんだなあ』と納得しました。学生さんたちは、まず我々が求めているものは何かを聞き取り、遠食がお客様にとってどんな存在になるのがふさわしいか、ポジションを明確にしてコンセプトを考える。ブランド・マークの開発にあたって、そこまで根源的なところから取り組むのかと最初は驚きましたよ。」
 
藤田 「学生にとっても、プレゼンの場で企業側から直接意見をいただくことは貴重な体験になります。ブランド・マーク制作という実践を通して、企業側の想いをカタチにすることへの難しさや、深く洞察することの大切さにも気付けたと思います。」
 
岡安 「学生のみなさんは、中間プレゼンで出た課題を最終プレゼンまでに修正してくれましたね。最優秀賞に選んだブランド・マークは、現在の遠食のブランド・マークにつながる素晴らしい作品でした。」
 
藤田 「最終的にブルックスタジオでブラッシュアップして、デザインマニュアル(※)とともに完成させました。プレゼンテーションやブランド・マークの発表がプレスにも取り上げられ、学生たちにとっても良い体験だったと思います。」
 
岡安 「最後まで面倒を見ていただきありがとうございました。おかげさまで満足のいくブランド・マークができました。協同組合内外の評判も上々です。『これからも産学官連携にどんどん取り組んでいきたいね』なんて話していたら、ブランド・マークが完成した翌年、早速・・・。」
 
藤田 「『浜名湖おでん』ですね!」
 
岡安 「はい。遠食の認定商品として、おでんの企画開発を進めていたんですが、ブランド・マークの実績もあったので、藤田さんにお願いすれば間違いないと思ったんです。」
 
藤田 「ありがとうございます。『浜名湖おでん』は、実際に産学官連携が大きな力を発揮した商品ですよね。今では地元のスーパーをはじめ、サービスエリアなどたくさんの場所でお見掛けします。商品を手にとっているお客様がいると僕も嬉しいですね。では、その『浜名湖おでん』の話をお聞きしても良いですか?」
 
岡安 「はい、もちろんです!」
 
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No.3 産学官連携から生まれた商品開発
 
岡安 「『浜名湖おでん』は、魚秀の味をそのままお持ち帰りいただきたいという考えから生まれた商品です。長期間保存可能でお土産として常温でお持ち帰りできるもの・・・。うなぎのかば焼きを練り物で巻いた『うなぎ巻』と、『うなぎエキス』を練り込んだはんぺん。浜名湖ならではの味を楽しめる具材が6種類入ったレトルトおでんです。」
 
藤田 「岡安さんは『魚秀ならではの商品を作りたい』とずっとおっしゃっていましたよね。大成功だったんじゃないでしょうか。」
 
岡安 「ありがとうございます。今では、『浜名湖おでん』がきっかけとなって、魚秀の練り物のほとんどに『うなぎエキス』を入れるようになりました。そういえば、『うなぎエキス』をアピールした方がいいんじゃないかと提案してくださったのは藤田さんでしたね。」
 
藤田 「『エキス』というと、『効くー』って感じしません?」
 
岡安 「そうですね。(笑)ネーミングの『浜名湖おでん』も、一緒にこだわって考えてくれましたね。最初は『浜松おでん』にしようかと思っていましたが、『浜名湖』にしたことで、舞阪で生まれた魚秀らしさも伝わったと思います。」
 
藤田 「産学官連携のコラボレーションでの学生の役割は、『うなぎエキス』入りの『浜名湖おでん』の売り方とパッケージのデザインの制作でした。授業の最初に、オリエンテーションで試食をさせていただきましたよね。おでんを土鍋いっぱいにして。」
 
岡安 「学生さんたちがおいしいと喜んでくれて嬉しかったですね。」
 
藤田 「企業から直接お話を聞けるだけでなく、試食までさせてもらい刺激になったと思います。実際の商品を味わってみることで、課題へ取り組む意識も高まったはずです。オリエンテーションからプレゼンテーションを振り返ってどうですか?」
 
岡安 「先ほどのお話にも出ましたが、やはり、どの学生さんも『誰が』『誰に』『何を』の部分をよーく考えて提案してくれたことが印象に残っていますね。パッケージを作っていく時に、こんなふうにお客様のことを想像することは経験がなかったものですから、すごく新鮮でしたよ。」
 
藤田 「デザインで『商品が売れる』をつくり出せるといっても、みなさんピンと来ないようなんですよね。おいしくなければ売れないのは当たり前ですが、それ以前に『おいしそう』と思わなければ買わないし、買って実際に食べてみないと『おいしい』は生まれません。お客様の『おいしい』までの道のりを考えるのがデザイナーの仕事なんです。」
 
岡安 「なるほど。スーパーで並んでいる商品をお客様が見た時に、買いたいなって思わせるのがパッケージやネーミングなんですね。デザインも商品の一部、ということでしょうか。」
 
藤田 「その通りです。それから、お客様は商品を買う時に誰が作っているものなのかを感じ取ろうとしています。だから、学生には必ず『誰が』『誰に』をじっくり考えさせます。『誰が』どんなメッセージを発信しているのか、という部分は受け手にとってすごく大切なことなんです。」
 
岡安 「学生さんが最終プレゼンをしてくれた当時は、商品化の途中段階でしたので、実際のパッケージに採用することは叶わなかったわけですが、産学官連携に取り組んだことで商品化のためのいろいろなヒントをいただくことができました。」
 
藤田 「でも、浜名湖おでんの商品開発が大変だったのはそれからでしたね。」
 
岡安 「はい。おでんについては、具材やスープの味など、さらに試行錯誤を重ねる中で、うなぎエキスだけではインパクトが足りないんじゃないかという意見が出て・・・。浜名湖産のうなぎの蒲焼きを巻くことになりました。」
 
藤田 「『うなぎ巻』には、度肝を抜かれました。でもこれだと思いましたよ。商品をブランディングする際に根幹になるのは、商品に対する絶対的な自信に他ならないと思います。魚秀さんは70年という歴史があって、独自の製法で丁寧に丁寧につくり続けてこられた。そこに試行錯誤してつくられた新商品『浜名湖おでん』が加わったんですね。」
 
岡安 「『うなぎ巻』を中心に、『浜名湖おでん』がどんどんカタチになってゆきました。そんな中、お土産用として商品化が決まり藤田さんに改めてパッケージ制作をお願いすることになって。」
 
藤田 「『うなぎ巻』にすべてが詰まっていると思ったので、パッケージはうなぎ巻の断面をしっかり見せることにしました。立てたまま展示できるPOPをかねたデザインで、お土産として持ち帰りやすいように取っ手をつけたこともポイントです。シンボル・マークも、魚秀さんの元々の魚のマークにうなぎを加えて一目で分かるようにしました。」
 
岡安 「パッケージもインパクトがあって気に入っていますし、このシンボル・マークで、魚秀とうなぎのイメージが繋がっていくとうれしいですね。」
 
藤田 「本当にさまざまなところで見掛けるようになりましたよね。産学官連携の最終目的は、それが社会と繋がって、経済として成り立っていくということです。」
 
岡安 「はい。『浜名湖おでん』を手に取っていただいて、『おいしい』と言ってくださるお客様がいる。すごく幸せなことです。この産学官連携の取組みは、素晴らしい結果を生み出したんじゃないかなあ。魚秀として、『白はんぺん』という看板商品に加えて『うなぎ巻』という看板商品ができた。これからも長く愛される商品として育てていきたいと思っています。」
 
2017年11月30日魚秀本社にて
 
 
 
 

No.学生にデザインを教える
 
藤田 「遠食(遠州食品加工業協同組合)さんとは産学官連携の取り組みでお世話になっています。」
 
岡安 「こちらこそ。浜松デザインカレッジの学生さんと共通認識を持ち、活動のベクトルを合わせる産学官連携では、若い世代の感性やアイデアを身近に感じることができて刺激になりました。こうして学生さんに教えるようになってから、もう長いのですか?」
 
藤田 「10年ほど前からですね。2008年に浜松デザインカレッジが開校する際に、『実践でやっている方にぜひ、講師をお願いしたい』とお話をいただいたんですよ。」
 
岡安 「そうでしたか。実践で長く仕事をされている方の生の声こそ学生には必要なんでしょうね。講師の立場としてデザインを学生に教えるというのはいかがですか?」
 
藤田 「うーん・・・。教えるっていうのは、特に教える仕事ではなくても、自分の子ども、後輩、部下を教えることはありますよね。ある意味、全ての人に必要な技能だと思うんですよ。僕の場合は、今までやってきたことを整理して学生に伝えるようにしています。普段、自分がデザインを生み出すプロセスや方法論を改めて整理しているという感じでしょうか。大変なことではあるけれど自分にとっても良い経験になっていると思います。」
 
岡安 「それは実践だけではなかなかできない経験だと思います。僕もそうですが、自分の仕事は当たり前と思ってやっているので、意識しないで取り組んでいることが多々ありますよね。経験や熟練は、時に先入観や間違った前提をつくってしまいがち。初心に戻って手法や手順を見直すこともまた大切です。」
 
藤田 「確かにそうですね。学生に教えるようになってから気付いたこともたくさんありましたよ。例えば、デザインには3つの段階があるんですが、デザインを学ぶ学生があまり理解できていないことが分かったんです。」
 
岡安 「3つの段階ですか?」
 
藤田 「はい。一つ目はモノやコトの『本質』、二つ目はそれを組み立てていくための『仕組み』、そして最後に、ビジュアルとして表出される『形態』です。」
 
岡安 「へぇー。デザインは『形態』のイメージが強いので、感性で絵を描いたり、カタチを美しく見せたりするスキルが問われるんだろうなと、つい思ってしまいます…。その前段階として『本質』と『仕組み』があるわけですね。」
 
藤田 「その通りです。『形態』は、『本質』を『仕組み』でつなげることで初めてカタチになる。僕は、『デザイン』という言葉を名詞ではなく動詞だと捉えています。もちろん、感性や個性に頼る部分もありますが、表現の技術だけで成立するのではなくて、目的に辿り着くまでの『考え方』まで含まれているのがデザインだと思うんです。」
 
岡安 「なるほど。つまり藤田さんは、学生さんにデザインの考え方を教えていらっしゃるんですね。」
 
藤田 「はい。それを目標としてやっています。よく『私はあの子より絵が下手だから』と落ち込む学生がいますが、そういった理由で挫折をしてほしくない。表現だけじゃなくて、計画する部分に個性が出るのがデザイナーなのかもしれません。」
 
岡安 「確かに、学生さんたちのプレゼンテーションの言葉は、デザイナーじゃない私が聞いていても共有できますからね。」
 
藤田 「そうなんです!デザインの良いところは、そこにあると思っています。基礎的なデザインの技術は、考え方を言葉で説明できるもの。そのために、『誰が』『誰に』『何を』をよく考えて、人の気持ちを動かすようなものを生み出してゆかなければなりません。」
 
岡安 「ああ、だから藤田さんは、『誰が』『誰に』『何を』の部分を丁寧に考えるような授業をされているんですね。今のお話をお聞きして納得しましたよ。」
 
藤田 「ありがとうございます。デザイナーは課題解決のために、あるストーリーに基づいて情報を再構築して表現に定着させる。学生には、実践のプロセスを通してデザインという行為の『気づき』を実感してほしいと思っています。学生にとって産学官連携は、社会に出る前の実践の場として、とても貴重な体験です。」
 
岡安 「学生さんたちが実践を通して得た『気づき』を社会に発信して、機能させていくことで、デザインの価値も高められていくんでしょうね。学生さんたちの未来に大いに期待したいですね。」
 
藤田 「そうですね。デザインを学ぶ学生はこの先、社会をより良いものにするために活躍してもらいたい人たちです。どんな仕事をするのにも、物事の本質を捉えるという視点は重要なんです。デザインで企業や商品の価値を高めてくれる人を育て、社会に送り出す責任も感じています。」
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 
 
 
 

No.2 役割りの違うものを連携させる
 
岡安 「遠州食品加工業協同組合(遠食)を設立した当時、ブランド・マークをつくりたいと思っても、どこに頼んだらよいのか分かりませんでした。そんな時に持ち上がったのが産学官連携のプロジェクト。藤田さんに携わっていただいて、学生さんに参加してもらうことで、若い人の興味や感性も知ることができ、我々も勉強になることばかりでした。」
 
藤田 「専門学校は各分野のスペシャリストを育成する実践教育の場。学生にとっても、企業からの要望に応え、社会の中でデザインをどう機能させるかを実践的に学ぶことは、将来につながる重要な体験です。またとない機会を与えていただき、心から感謝しています。」
 
岡安 「専門学校の学生さんには若いセンスとアイデアがある。さらに、デザインの社会性を知り、実際に商品開発を体感したいという欲求がある。一方の企業には商品開発力と販売力を高めたいという切実な思いがある。これら二つを藤田さんの専門性が上手く結び付けた。シーズとニーズが手をつないで動き出し、互いに刺激し合いながら進んでいったのではないでしょうか。藤田さんが産学官連携のキーマンでしたね。」
 
藤田 「社会の中で役割の違うものが連携して社会の経済活動に繋がるようなことができないか?と考えたのが遠食さんとの産学官連携のはじまり。最初は『遠食』のブランド・マークをつくるという課題でした。」
 
岡安 「『遠食』は、遠州地域の食文化の伝承と食品産業の発展を目的として、2013年6月に設立した組合です。CIの開発のパートナーとして、学生さんとのコラボレーションを藤田さんにお願いしました。」
 
藤田 「社会の中に、『遠食』という存在をどんなイメージで訴求していけばいいのかを考え、その基点となるようなブランド・マークをつくるのが学生たちの課題でした。」
 
岡安 「中間プレゼン、そして最終プレゼンに立ち合わせていただき、『ああ、デザインってこうやってカタチになっていくんだなあ』と納得しました。学生さんたちは、まず我々が求めているものは何かを聞き取り、遠食がお客様にとってどんな存在になるのがふさわしいか、ポジションを明確にしてコンセプトを考える。ブランド・マークの開発にあたって、そこまで根源的なところから取り組むのかと最初は驚きましたよ。」
 
藤田 「学生にとっても、プレゼンの場で企業側から直接意見をいただくことは貴重な体験になります。ブランド・マーク制作という実践を通して、企業側の想いをカタチにすることへの難しさや、深く洞察することの大切さにも気付けたと思います。」
 
岡安 「学生のみなさんは、中間プレゼンで出た課題を最終プレゼンまでに修正してくれましたね。最優秀賞に選んだブランド・マークは、現在の遠食のブランド・マークにつながる素晴らしい作品でした。」
 
藤田 「最終的にブルックスタジオでブラッシュアップして、デザインマニュアル(※)とともに完成させました。プレゼンテーションやブランド・マークの発表がプレスにも取り上げられ、学生たちにとっても良い体験だったと思います。」
 
岡安 「最後まで面倒を見ていただきありがとうございました。おかげさまで満足のいくブランド・マークができました。協同組合内外の評判も上々です。『これからも産学官連携にどんどん取り組んでいきたいね』なんて話していたら、ブランド・マークが完成した翌年、早速・・・。」
 
藤田 「『浜名湖おでん』ですね!」
 
岡安 「はい。遠食の認定商品として、おでんの企画開発を進めていたんですが、ブランド・マークの実績もあったので、藤田さんにお願いすれば間違いないと思ったんです。」
 
藤田 「ありがとうございます。『浜名湖おでん』は、実際に産学官連携が大きな力を発揮した商品ですよね。今では地元のスーパーをはじめ、サービスエリアなどたくさんの場所でお見掛けします。商品を手にとっているお客様がいると僕も嬉しいですね。では、その『浜名湖おでん』の話をお聞きしても良いですか?」
 
岡安 「はい、もちろんです!」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 
 
 
 
 

No.3 産学官連携から生まれた商品開発
 
岡安 「『浜名湖おでん』は、魚秀の味をそのままお持ち帰りいただきたいという考えから生まれた商品です。長期間保存可能でお土産として常温でお持ち帰りできるもの・・・。うなぎのかば焼きを練り物で巻いた『うなぎ巻』と、『うなぎエキス』を練り込んだはんぺん。浜名湖ならではの味を楽しめる具材が6種類入ったレトルトおでんです。」
 
藤田 「岡安さんは『魚秀ならではの商品を作りたい』とずっとおっしゃっていましたよね。大成功だったんじゃないでしょうか。」
 
岡安 「ありがとうございます。今では、『浜名湖おでん』がきっかけとなって、魚秀の練り物のほとんどに『うなぎエキス』を入れるようになりました。そういえば、『うなぎエキス』をアピールした方がいいんじゃないかと提案してくださったのは藤田さんでしたね。」
 
藤田 「『エキス』というと、『効くー』って感じしません?」
 
岡安 「そうですね。(笑)ネーミングの『浜名湖おでん』も、一緒にこだわって考えてくれましたね。最初は『浜松おでん』にしようかと思っていましたが、『浜名湖』にしたことで、舞阪で生まれた魚秀らしさも伝わったと思います。」
 
藤田 「産学官連携のコラボレーションでの学生の役割は、『うなぎエキス』入りの『浜名湖おでん』の売り方とパッケージのデザインの制作でした。授業の最初に、オリエンテーションで試食をさせていただきましたよね。おでんを土鍋いっぱいにして。」
 
岡安 「学生さんたちがおいしいと喜んでくれて嬉しかったですね。」
 
藤田 「企業から直接お話を聞けるだけでなく、試食までさせてもらい刺激になったと思います。実際の商品を味わってみることで、課題へ取り組む意識も高まったはずです。オリエンテーションからプレゼンテーションを振り返ってどうですか?」
 
岡安 「先ほどのお話にも出ましたが、やはり、どの学生さんも『誰が』『誰に』『何を』の部分をよーく考えて提案してくれたことが印象に残っていますね。パッケージを作っていく時に、こんなふうにお客様のことを想像することは経験がなかったものですから、すごく新鮮でしたよ。」
 
藤田 「デザインで『商品が売れる』をつくり出せるといっても、みなさんピンと来ないようなんですよね。おいしくなければ売れないのは当たり前ですが、それ以前に『おいしそう』と思わなければ買わないし、買って実際に食べてみないと『おいしい』は生まれません。お客様の『おいしい』までの道のりを考えるのがデザイナーの仕事なんです。」
 
岡安 「なるほど。スーパーで並んでいる商品をお客様が見た時に、買いたいなって思わせるのがパッケージやネーミングなんですね。デザインも商品の一部、ということでしょうか。」
 
藤田 「その通りです。それから、お客様は商品を買う時に誰が作っているものなのかを感じ取ろうとしています。だから、学生には必ず『誰が』『誰に』をじっくり考えさせます。『誰が』どんなメッセージを発信しているのか、という部分は受け手にとってすごく大切なことなんです。」
 
岡安 「学生さんが最終プレゼンをしてくれた当時は、商品化の途中段階でしたので、実際のパッケージに採用することは叶わなかったわけですが、産学官連携に取り組んだことで商品化のためのいろいろなヒントをいただくことができました。」
 
藤田 「でも、浜名湖おでんの商品開発が大変だったのはそれからでしたね。」
 
岡安 「はい。おでんについては、具材やスープの味など、さらに試行錯誤を重ねる中で、うなぎエキスだけではインパクトが足りないんじゃないかという意見が出て・・・。浜名湖産のうなぎの蒲焼きを巻くことになりました。」
 
藤田 「『うなぎ巻』には、度肝を抜かれました。でもこれだと思いましたよ。商品をブランディングする際に根幹になるのは、商品に対する絶対的な自信に他ならないと思います。魚秀さんは70年という歴史があって、独自の製法で丁寧に丁寧につくり続けてこられた。そこに試行錯誤してつくられた新商品『浜名湖おでん』が加わったんですね。」
 
岡安 「『うなぎ巻』を中心に、『浜名湖おでん』がどんどんカタチになってゆきました。そんな中、お土産用として商品化が決まり藤田さんに改めてパッケージ制作をお願いすることになって。」
 
藤田 「『うなぎ巻』にすべてが詰まっていると思ったので、パッケージはうなぎ巻の断面をしっかり見せることにしました。立てたまま展示できるPOPをかねたデザインで、お土産として持ち帰りやすいように取っ手をつけたこともポイントです。シンボル・マークも、魚秀さんの元々の魚のマークにうなぎを加えて一目で分かるようにしました。」
 
岡安 「パッケージもインパクトがあって気に入っていますし、このシンボル・マークで、魚秀とうなぎのイメージが繋がっていくとうれしいですね。」
 
藤田 「本当にさまざまなところで見掛けるようになりましたよね。産学官連携の最終目的は、それが社会と繋がって、経済として成り立っていくということです。」
 
岡安 「はい。『浜名湖おでん』を手に取っていただいて、『おいしい』と言ってくださるお客様がいる。すごく幸せなことです。この産学官連携の取組みは、素晴らしい結果を生み出したんじゃないかなあ。魚秀として、『白はんぺん』という看板商品に加えて『うなぎ巻』という看板商品ができた。これからも長く愛される商品として育てていきたいと思っています。」
 
2017年11月30日魚秀本社にて
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ブルックスタジオ制作実例
>遠州食品加工業協同組合
>浜名湖おでん
 

遠州食品加工業協同組合(遠食)
 
2013年6月 遠州地域の食文化の伝承と地域の食品産業の発展を目的として、静岡県西部地区を中心とした和菓子や練り物などの地元の食品加工業会社32社で組織する協同組合。
 
▶︎遠州食品加工業協同組合ブログ


株式会社魚秀
 
静岡県浜松市西区舞阪町の練り物製造会社。創業70年、伝統の技を受け継ぎ、はんぺんをはじめとした魚肉練製品(蒲鉾・すりみ・揚半など)を製造している。こだわりの「蒸しはんぺん」は、魚本来の旨みを閉じ込めるため、創業以来一貫して『蒸し』の製法をとっている。また、水産物(あさり・ちりめん・のりなど)の取り扱いも行っている。
 
▶︎株式会社魚秀ホームページ


※)デザインマニュアル:デザインシステムの基本的な考え方と具体的な展開基準を示すもの。コーポレートシンボルやコーポレートカラーなど一貫して変わらない基本要素の使用規定、また、アプリケーションの各種のアイテムに展開されていくときの基本的な使用規定が整理される。これにより、デザインシステムの水準を一定に維持することができる。