第1話 東京で住み継ぐ家を、つくり継ぐ。
 
株式会社田中工務店 代表取締役 田中 健司(東京都江戸川区)

 ここに1冊の本があります。
 タイトルは、優秀工務店・田中工務店の標準仕様書『木造住宅の実用納まり図鑑』。 意匠を重視しながらも、メンテナンス性などの使い勝手に配慮された自社開発のディティールが、わかりやすくまとめられています。
 田中工務店さんは、意匠と性能を高いレベルで両立させている稀有な工務店です。社会からの要望に正面から向き合い、真摯に家づくりに取り組む田中社長。今回、性能ガイドブックの改訂のご依頼があり、打ち合わせの後インタビューに応じていただきました。
 
No.1 「らしさ」を魅力的に表現する
 
藤田 ブログ『三代目のダイアリー』いつも楽しく拝見しています。東京ならではの狭小地の住宅建設や維持管理をテーマにされたものはもちろん、知る人ぞ知るような雑貨や、展示会の話。特に刺激を受けるのは、真冬でも休みがとれれば出かけられるという波乗りの話ですね。
 
田中 見てくださっているんですね。波乗りはね、南房総まで出かけるんですよ。できるだけ時間をつくって行きたいと思っているんです。気分をガラッと変えられるし、体力維持にはかかせませんから。
 
藤田 そうですか。僕の同年代は、腰痛だの老眼だのって話が多い中、田中さんは、初めてお会いした頃とちっとも変わらない。やっぱり波乗りされているからでしょうか? 僕も波乗り始めようかなあ(笑)。 
 
田中 2時間ほどの波乗りは腕、肩、腰、首に負荷のかかるトレーニングです。藤田さんも是非始めてくださいよ。 
 
藤田 僕の場合、波乗りを始めるためのトレーニングから始めないと無理かもしれませんね(笑)。それでは、さっそくですが、田中さんとの出会いのお話からすすめさせてください。
 
田中 そうですね。波乗りの話はまた次の機会に(笑)。そもそも、当社がOMソーラー協会※1に加盟したのが2002年。OMソーラーのシステムだけでなく、OMソーラーのプロモーションにもすごく興味があったんですよ。あの頃、ビジュアル全般を手がけていたのが藤田さんでしたね。 
 
藤田 OMソーラー協会さんの仕事は、全国発信で自然と共生する建築運動でもありました。当時、夢中になってプロモーションに取り組んでいたことを思い出します。
 
田中 そうですか。ちょうど同じ頃、当社を含む東京都内の工務店3社が集まって、家づくりの勉強会をしようということになってね。 
 
藤田 それが東京町家をつくる会※2ですね。
 
田中 その東京町家の情報発信にあたって、ロゴマークやパンフレットなどの販促物はどうしようか? というときに3社の共通点であるOMソーラーのプロモーションに携わっている藤田さんなら、ポリシーを共有してくれるに違いない。実績からいっても安心してお任せできると思いまして・・・。 
 
藤田 ありがとうございます。東京町家がどの方向に向かえば良いのか、プロモーションは何から手をつけるべきか、随分打ち合わせを重ねましたよね。お会いするたびに議論が白熱し、田中さんから溢れ出るエネルギーをすごく感じたことを憶えていますよ。
 
田中 え? そんなにエネルギッシュでした? だとしたら、藤田さんをはじめ、日本中で良い仕事をされている工務店さんたちとの出会いがそうさせていたんでしょうね。
 
藤田 OMソーラーさんには家づくりに前向きな工務店が集まっていますからね。そうそう、プロモーションの一環として東京町家で「手ぬぐい」をつくったでしょう? あのデザインがきっかけで、他の工務店さんからも手ぬぐいのデザインのご依頼が増えたんですよ。
 
田中 へぇ! それは初めて知りました。何だか嬉しいですね。手ぬぐいを出発点にいろいろと発展があったんですね。振り返ってみると、東京町家のプロモーションに取り組んだことで、田中工務店が目指すべき方向性が見えてきて、自社のプロモーションを強く意識するようになったと思います。田中工務店単独のオーダーとしては、増えてきた施工例をまとめるカバーをお願いしたのが最初でしたね。 
 
藤田 はい、カバーひとつですけど、田中工務店さんの印象を左右するものなので、形態や紙、印刷方法の試行錯誤を重ねました。 
 
田中 あれはすごく気に入っていて、今でも大事に使っているんですよ。施工例カバーをつくった頃から、周りに少しずつ田中工務店の家づくりを認めていただけるようになったことも収穫でした。でもね、喜んでばかりはいられません。この先も選ばれ続けるためには、アイデンティティを明確にしたプロモーションが必要だと思いました。だからシンボルマークをつくる際には、田中工務店らしさを客観的に表現してくださる藤田さんにお願いしようと、ずっと前から決めていたんです。 
 
藤田 シンボルマークは完成までに1年以上の時間がかかりました。「らしさ」を的確に表現するのはとても難しいんです。田中さんは納得しないと首を縦に振らない方だし、こだわりも強い。納得していただけなければ、つくり手として僕も引くに引けません。これしかないというシンボルマークをご提案しようと、ずいぶん時間がかかりました。
 
田中 本当に長かったですね(笑)。
 
藤田 シンボルマークやロゴタイプは、多くの人に明快なイメージを与えると同時に、永く愛されるものでなければなりません。ですから、田中工務店さんの志や想い、哲学、これまでの歩みを充分に理解しないことには始まらない。時間はかかりましたが、本質を探り出すことで、ふさわしい印象を魅力的に可視化できたと思っています。
 
田中 なるほど。時間をかけて検討した結果、最終的にはコンセプトも固まって、「田中の木組みが町並みをつくる」という案を出していただいたときには「コレだ!」と直感しました。シンプルなデザインに当社のコンセプトや想いが過不足なく込められていましたね。
 
藤田 シンボルマークは理屈だけでなく、感性も意識する必要があります。「あぁ、コレだ」と納得していただけたのは、田中工務店さんの本質にたどり着けたからだと思います。
 
田中 シンボルマークの制作を通して、熱意がものすごく伝わってきました。 
 
藤田 こだわりに応えるために真剣でした。シンボルマークやロゴタイプは、その会社と様々なステークホルダーとの関係性を一括りにする目印なんです。マークが世に出てからも継続的に、顧客や生活者との信頼関係やイメージをマークという容器に貯めていくことで、ますます力を持って働くようになると思います。
 
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 

No.2 ブランディングにつながるプロモーション
 
田中 施工例カバーやシンボルマークをつくるときにもう一度、自社の正しい伝え方をしっかりと考えようと思ったんです。
  
藤田 伝えたいことが伝わっているのか、田中工務店さんらしさは伝わっているのかということを考えられたわけですね。 
 
田中 はい。実際、お客様の中には工務店が何をしているのか、よくわからない方もいるのではないかと思いまして。家をつくることは知っているけど、設計や性能にまでこだわってつくっていることは知らないんじゃないかと。それまで僕たちが掲げていたスローガンも、ひょっとしたら、お客様にはちゃんと伝わっていなかったのかもしれませんしね。
 
藤田 確かに自社の良さを客観的に伝えることは、工務店自身では難しいかもしれません。あらゆる情報を整理し、ストーリーを考えて効果的に伝えるのが、僕たちデザイナーの仕事。シンボルマークの制作は、もう一度自社を見つめ直す良い機会だったと思います。
 
田中 あれも言いたい、これも言いたいではダメなんですよね。情報を整理し、優先順位をつけて、メッセージを削ぎ落としていくことが大切だと身をもって知りました。
 
藤田 伝えたいメッセージが整理されて、ブランド・スローガンである「住み継ぐ家をつくり継ぐ」と、「田中の木組みが町並みをつくる」という意味を込めたシンボルマーク、そしてロゴタイプが一括りになって、強いメッセージを発信できていると思います。お客様との接点で、「良さ」「らしさ」を伝える最適なツールを有効に活用していくことが大切ですね。
 
田中 はい。藤田さんにお願いした展示会用パネルは、建物のイメージとキャッチコピーだけで表現していて、「住まいの展示会」の中でもすごく目立ちました。一瞬でどんな家をつくっているかが伝わるパネルでした。
 
藤田 そうですか。それは良かったです。ポスター、パネルはもちろん、封筒や名刺も含めたアプリケーション・デザインにまで細かく気を配ることが大切です。それが田中工務店さんのメッセージの伝わり方を大きく左右しますから。
 
田中 確かにそうですね。藤田さんのすすめで、裏面に内観の写真とスローガンを入れた名刺は、受け取られたお客様が、どんな家をつくっている工務店なのか一目でわかるようになっています。
 
藤田 以前、プロモーションをお手伝いさせていただいた工務店さんから聞いた話ですが、名刺を受け取ったお客様が「こういう名刺の工務店なら、ぜひ施工をお願いしたい」と言ってくださったそうです。たかが名刺、されど名刺。たった1枚の小さな名刺から、お客様は工務店が発するメッセージを無意識のうちにキャッチし、印象を形成し、信頼できるか否かを判断するのではないでしょうか。
 
田中 確かに、それはあると思いますね。
 
藤田 お話をお聞きして、制作者として嬉しくもありましたが、アプリケーション全てにおいてメッセージの伝わり方を丁寧に考えなければ、と改めて感じました。 
 
田中 同じメッセージを伝えるとしても、ツールによって伝え方や表現を変えるわけですね。 
 
藤田 そうです。お客様の理解にも段階があるし、デザインには目的を達成するためのメッセージがあります。そこを考えずに表面的にツールをつくるだけでは、発信側の意図は伝わりません。プロモーションの最大効果を狙うなら、同じクライアントであっても、ツールひとつひとつにフレッシュな気持ちで向き合い、全体最適を念頭に練り上げていくことが大切です。
 
田中 なるほど。自社の良さを客観的に評価して、お客様の視点になってメッセージを伝えるのは工務店だけでは出来ませんから。
 
藤田 「美しい意匠と確かな性能を両立する」というメッセージが、お客様との接点で上手く積み重なって、「東京で住み続けられる木の家をつくるなら田中工務店」という家づくりのイメージがお客様の心の中に構築できたのではないでしょうか。
 
 
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No.3 どう伝えたら、どう思ってもらえるのか
 
田中 藤田さんと仕事をした中では、シンボルマークと性能ガイドブックをつくったことが一番大きかったと思います。名古屋と埼玉の工務店さんと田中工務店の3社が持ち回りでおこなったプロモーションの勉強会で、今のように国が定めた長期優良住宅という認定基準がまだ出来ていない中でも、家の「性能」が大切だということを僕たちは考えていたんです。各社独自性はあるものの、共通項もありました。それを藤田さんと野池政宏※3さんでまとめてくださったのが性能ガイドブックですよね。
  
藤田 性能ガイドブックに書かれている内容って、関心がある工務店さんはすでに取り組んでいたことなんですよね。それを目に見えるカタチにしていないからお客様へ伝わっていないだけで。そういう見えない「性能」をわかりやすくお客様に伝えることはできないだろうかと、それが他の工務店との差異化になるんじゃないかと考えて、野池さんへ相談したのが性能ガイドブックの始まりなんです。
 
田中 性能を項目ごとにひも解いてまとめたのは画期的でしたね。 
 
藤田 新しいプロモーション・ツールを開発できたと自負しています。 
 
田中 その後につくったのが設計ルールブック。通常なら、まず設計のことを初めに冊子にまとめようとするんですが、田中工務店の場合は、「性能」が先。そして「設計」。それが対になっているのが、ポイントですよね。 
 
藤田 田中工務店さんならではの設計力をより正確に伝えるために、プロモーション・ツールで「性能も設計もしっかりとやる工務店」と、家づくりのスタンスを明確に表明したことで、お客様の共感を呼び、信頼につなげることができたのだと思います。こんなふうに言うと、まるで制作した僕のお手柄みたいですが(笑)、そうではなくて、完成したツールを田中さんが上手に活用していることが大きいと思います。
 
田中 ありがとうございます。 
 
藤田 お客様と接する、かなり早い段階で性能ガイドブックと設計ルールブックをお渡ししていますよね。そうすることで、この2冊が田中工務店さんのコンセプトブックとしての役割も果たしているんだと思いますね。「意匠」と「性能」を両立させること、それが田中工務店さんの一番の魅力であり、アイデンティティでもあります。
 
田中 なるほど。確かに、つくったツールをどう活用していこうか、というのは常に考え続けてきました。先日も、性能ガイドブックの内容について見直したいと考えて、藤田さんに相談したばかり。今までの性能ガイドブックは製本をしていなかったんですが、今度は冊子にまとめようと・・・。
 
藤田 最初に性能ガイドブックをつくってから何年か経過していますからね。もう一度見直して、次の段階にリニューアルする良い機会かもしれません。
 
田中 現状に満足せず、常に前へ進まなければいけませんから。
  
藤田 田中工務店さんとは多くの仕事をさせていただきました。その時々の課題をしっかりと整理し、解決に向かって田中工務店さんらしさを表現できたことを嬉しく思います。
  
田中 こうやって振り返ると、プロモーションがスムーズにいったのは、藤田さんとの段階を重ねた信頼関係があったからこそですよね。
 
藤田 長い間一緒にお仕事させていただくということは本当に有り難いことだと思います。いつも前向きな田中さんの挑戦と革新のエネルギーが、3代続く工務店の伝統に厚みを持たせて、新たな価値につながっていくんですね。これからも同じ視点で歩みながらお手伝いができたらと思います。
 
 
2017年8月28日 田中工務店にて
 
 
 

株式会社田中工務店

東京江戸川区小岩に3代続く工務店。対象となる建築地の多くが都市部の狭小地でありながらも、意匠と性能の両立をモットーに、限られた空間に最良の質を有する住まいを提供。「長い時間で考える」という発想のもと、時の経過とともにその価値がますます明確になってくる住まいづくりに取り組んでいる。
 
▶︎株式会社田中工務店ホームページ


※1)OMソーラー協会:現OMソーラー株式会社/「環境と共生する地域建設の創造」を理念に、もともと自然が持っている力を利用して熱と空気をデザインする、OMソーラーシステムを開発・販売する会社。ブルックスタジオは1990年〜2015年までキャンペーン、プロモーションに携わる。
※2)東京町家:東京の工務店3社恊働の「東京町家をつくる会」が提案する、狭小敷地でも自然の摂理に従った工夫で、つくる快適な住宅のネーミング。
※3)野池政宏:住まいと環境社代表/一般社団法人Forward to 1985 energy life代表理事/NPO法人WOODAC理事/自立循環型住宅研究会主宰/暮らし向上リフォーム研究会主宰/その他、OMソーラーや全国のベンチマーク工務店のコンサルタント、販促ツールのプロモーションなど、住宅アナリスト。
その他、OMソーラー協会や全国のベンチマーク工務店のコンサルタント、販促ツールのプロモーションなど、住宅アナリスト。