第3話 「山一」だからできること。
 
株式会社山一木研 代表取締役社長 林 俊哉(静岡県浜松市)

 山一木研さんにお伺いすると、いつも林社長自ら挽きたての豆でコーヒーを入れてくださいます。豆を挽く音が応接室に響き、そのうち深みのあるコーヒーの香りが漂う、とても贅沢な時間がゆっくりと流れます。今日もそんな1杯のコーヒーをいただきながら、柔らかな雰囲気の中で話が始まりました。
 
No.1 価値を探して磨く
 
藤田 いつも、林さんの入れてくださるコーヒーは絶品ですねぇ。深い中にも柔らかい優しさがあります。
 
 そうですか?心を込めて入れてますからね〜(笑)。 
 
藤田 出会いは、専門家派遣として伺ったのが初めてですよね。 
 
 そうですね。今から8年程前(2010年)になりますか? 
 
藤田 初めてお伺いしたときから、こうしてコーヒーを入れてくださって、いつも楽しみにしているんですよ。 
 
 そうですか? 嬉しいですね。あっそうそう8年前の話・・・そう、あの頃は「昔ながらの木工の固い会社」というイメージから脱却したいとすごく悩んでいた時期でね。でも何から手をつけて良いのかもわからず、悶々とした日々を過ごしていたんですよ。そんなとき、偶然、専門家派遣の事業を知ったんです。
 
藤田 自社の課題を解決したくても、どこから手をつけて良いか、誰に何を頼んで良いのかわからない方は沢山いるのかもしれませんね。 
 
 そうなんですよ。藤田さんとの出会いは山一木研にとって、すごく大きなことでした。でもね、専門家派遣でデザイナーさんがみえるって聞いたときは、きっとクセやアクが強い人なんじゃないかなー。なんて思っていましたよ(笑)。知らないってことは怖いですよねぇ。間違った方向への思い込みが膨らんじゃって、どんな人がくるんだろうって少し身構えていたところはありました。
 
藤田 あはは。で、いかがでしたか? 
 
 いやいや。それまで勝手に持っていたデザイナーのイメージとは全く違いました。すごくフランクで、いろいろなお話が違和感なくできましたね。「えー? そんな話までするの?」というような一見仕事には関係無さそうなお話まで・・・。何より印象的だったのは、私の話を何時間もじっくりと聞いてくださったことでした。 
 
藤田 僕が時間をかけてお話を伺ったのは、山一木研さんの中にこそ発信すべき価値があると思っていたからです。デザイナーが勝手に価値を付加するのではなく、本質的な価値を探し出して磨いて伝えることがデザイナーの仕事なんです。だからまずはお話を伺って、情報を整理して、山一木研さんらしさというアイデンティティを明確にした上で、情報を再構築することでコンセプトを導きだしました。 
 
 確かに、お話をしていくことで具体的に自分達が何をしたいのかが明確になったのは実感しましたね。初めは漠然と「昔ながらの製函工のイメージから脱して、何か新しいことがしたい」と考えていましたが、最終的には「受け継いできた技術を新しい価値にして発信していきたい」と着地することができたんです。
 
藤田 さらに、アイデンティティだけでなく、どういう気持ちで製品をつくるのかという「価値観」なども時間をかけて探りだすことで「木でつくる山一ならではの自由な発想と繊細な技術」というコンセプトが生まれましたし、それを受けて「山」と「一」をモチーフに「発想力」と「技術力」を表現したシンボルマークができたんだと思いますね。時間はかかりましたけど、コンセプトが統一されないままCI※1を進めても誰にも響きませんからね。 
 
 実はね、藤田さんに相談する前に社内でシンボルマークとロゴタイプを考えてみたことがあるんですよ。 
 
藤田 へぇー! そうだったんですか。どうでしたか? 
 
 もう、全然ダメでしたね〜(笑)。社名をいろんな書体で並べてもピンとこないし、社員全員でマークを考えてもしっくりこない。でも藤田さんがご提案してくださったマークは迷わず選ぶことができたんです。それで気づいたんですよ、我々には軸になるものと客観性が足りなかったんだと。
 
藤田 軸と客観性ですか?
 
 そうです。ブランディングは、山一木研が考えていることを相手に押しつけるのではなくて、相手が考えを受け取って頭の中にイメージするということが大切ですよね。ということは、マークをつくるときにも主観だけで考えてはいけなかったんです。ですから、私の考えを全て話して聞いていただいた上で、ご提案していただいたマークは、山一木研を客観的に見たイメージが最適なカタチになっていると感じたので、迷わず選べたんだと思います。 
 
藤田 それを感じたということは、コンセプトを明確にしていく過程で林さんの中にも、客観的な山一木研さんへのイメージができあがっていたのかもしれませんね。 
 
 あぁ、なるほど。自社を違う角度で考えることができたから、マークやカラーリングを選ぶ際にも迷わず決められたんですね。 
 
藤田 そうだと思います。自社の理念やコンセプトが明確になっていない状態で、シンボルマークの提案をしても全く選べないんですよ。だから何よりも、まずはお話を伺うこと。そして依頼主の中にある価値を見つけ出すことが重要で、それを共有することでやっと軸ができる。世間一般のデザインのイメージってもっと感覚的に生まれてくるものだと思われがちですが、論理で考えることも必要なんですよね。コンセプトをつくるという作業がなければ、適切な見た目の表現=デザインはつくりだせないんです。
 
 
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No.2 情感として、心の中に記憶してもらう
 
藤田 CIによって山一木研さんの価値を探り出して磨くことができたので、その価値をプロモーションでどうやって正しく伝えていくか、が次の課題でしたね。 
 
 そうでした。CIでしっかりとコンセプトを明確にできていたから、会社案内や製品パンフレット、それからホームページへと適切なプロモーション展開ができたと思いますね。 
 
藤田 しばらくして「クラシイス」のプロモーションのご相談をいただきました。 
 
 そのときは「クラシイス」という名前もまだなくて。以前から天竜杉の集成材を使用したピアノ椅子の研究開発をしていたんですが・・・。いざ展示会へ出展する際に、どうすれば良いのかと悩み、藤田さんにご相談するのがベストだと。 
 
藤田 最初に何も塗装していない木目のきれいなナチュラルな状態の試作品を見せていただいて、あれがすごく印象的で。ピアノ椅子の定番の黒に塗装してしまうのはもったいない。木目を活かして売ることができないかとお話したのを覚えています。
 
 そうでしたね。結果、様々な暮らしの空間に溶け込む椅子を開発できたと思います。 
 
藤田 「暮らしの空間に溶け込む」というのが、身近に感じられて良かったんですよね。その上で昇降機能を活かして、子どもと大人が目線を合わせたり、お年寄りが座りやすい高さに調節できる。「リビングで使えるピアノ椅子」というコンセプトが伝わるように 「クラシイス」というネーミングが生まれました。機能やスペックで違いを出そうとしても、買う側からすればよく見なければわからないものです。「売れる」をつくり出すためには、この椅子によって暮らしの空間の中で起こる「コト」を伝えなければと思ったんです。 
 
 椅子によって起こる「コト」か、なるほど。ネーミングが決まってからはパンフレットやホームページの専用ページもお願いしましたね。プロモーション・ツールのおかげもあって展示会では好評をいただきました。その頃から、山一木研が木工製品をつくれる会社だということが認知されていったように思います。 
 
藤田 認知度が上がって、周りの見方は変わりましたか? 
 
 はい。昨年、伊豆にある高齢者向け分譲マンションからお話をいただき、木製の大きな集合ポストをつくらせていただいたんですが、そのときも、山一木研のホームページから企業理念や「クラシイス」の雰囲気を理解して、声をかけてくださったと聞いて、とても嬉しく思いました。
 
藤田 なるほど! 最初に抜け出したかった「製函工のイメージ」から脱して、「木工メーカー」として認知されるようになったわけですね。それは山一木研さんの想いや志を含めた魅力や価値がメッセージを通して正しく伝わっているということですね。
 
 ええ、正しく発信していくということは本当に大切だと感じましたね。
 
藤田 そうだと思います。
 
 2011年のCIのときに社員全員分の名刺をつくりました。実は一度も名刺を持ったことのない社員もいたんですが、自分も会社の一員だということを自覚して、お客様だけでなく家族へも胸を張って「山一木研で働いている」と伝えて欲しかったんですよね。
 
藤田 それで社員の方の反応はどうでしたか?
 
 いやぁ、みんな感激していましたね〜。自信を持って名刺を渡して、それを受け取った人が「この会社なら良いものをつくってくれそうだな」と感じる。それも価値が伝わっていると言えますかね?
 
藤田 もちろんです! 名刺も会社の顔ですからね。それを自信を持って渡すことは相手の情感にも伝わります。CIによって、ビジュアルの統一だけでなく、考え方や理念が統一されて、そして社員の行動も統一されました。シンボルマークとロゴタイプを核としてコンセプトに沿ったプロモーション展開を的確に行うことで、山一木研さんの「技術」や「発想力」がしっかりと発信・共有されているからこそ、好意的認知から信頼、共感の情感が心の中に記憶されたんだと思います。それが「クラシイス」や分譲マンションの大きなポストへとつながっているんですよね。単なる露出をするだけではこうはいきません。
 
 
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No.3 新しいことへの挑戦へ繋げる
 
藤田 最近、新しい事業を始められたそうですね。
 
 はい、縁あって新しい会社に関わることになりました。その際にも、山一木研のCIの進め方を活かせましたし、「木でつくる山一ならではの自由な発想と繊細な技術」というコンセプトがベースにあることで、新しい事業と相乗効果につながると思っているので、とても良い方向に進んでいると思います。
 
藤田 CIによって進むべき方向ができ、さらにそこに社員のみなさんの想いや行動などのエネルギーがうまく重なったことで道が開けたんですね。
 
 そうですね。良い製品をつくることは企業として当たり前なんですが、シンボルマークやホームページのような見た目の部分から山一木研のコンセプトを感じ取っていただけるようにコントロールすることも大事だと感じています。すごく大変なんですけどね(笑)。展示会などに出展をする際にもやはりその辺りは意識していますし、そうやってブレずに進めていくことで、さらにいろいろと声をかけていただけるようになりました。
 
藤田 それはとても良い傾向ですね。
 
 実は最近、はままつフラワーパークさんから年間の祭事のディスプレイ装飾のご依頼を受けたんですよ。
 
藤田 えーっ?装飾ですか?
 
 そうなんですよ。フラワーパークの職員さん達がデコレーションするための芯材をつくるんです。依頼を受けたときには自分達にできるんだろうかって思うほど大がかりなものでしたが、職員さんの描いたラフを元に自由な発想でチャレンジしました。大変でしたけど、とても上手くいきましたよ。クリスマスには煙突付の、人が入れるちいさな家をつくったり。なんと今は橋をつくっていますよ。
 
藤田 それはおもしろいことが始まりましたね。それは社員の方が積極的にチャレンジするんですか? 
  
 はい、社員全員が山一木研のコンセプトを理解していますから。新しいことを敬遠するのではなく、「面白そうだな」「どうやったらできるだろう」とチャレンジしていますよ。「できない」という発想が最初からないんです。
 
藤田 まさしくコンセプトの、「技術力」と「発想力」で「山一だからできること」をされているんですね。僕はコンセプトの構築とシンボルマークなどの制作やプロモーションに関わりましたけど、実践されているのは山一木研さんですから。社内でコンセプトを共有できている、そこが非常に大きな部分だと思います。ブランドをつくるというのは、当然デザイナーだけで成り立つものではないんですよね。企業側のブランドへの理解と意識がやはり大切だと感じています。
 
 藤田さんと出会って、僕の中でのデザインの重要性が変わりましたね。企業の中のデザインの立ち位置は、どこかの部署の附属になりがちですが、もっと会社のトップ(経営者)の近くに置くべきだと考えるようになりましたね。実際に今、それが良いカタチで機能していますし。
 
藤田 それはとても嬉しいことですね。「ターゲットを変えてみる」とか「販売方法を変えてみる」とか、もっと言えば「製品を開発するときの考え方を変えてみる」というような価値や意味、考え方をカタチにする方法がデザインですから。商品の品質を上げることはもちろん大切ですが、デザインの力で「売れる」をつくり出すことをトップの方が信用してくれるのは、大変心強いですよ。
 
 いくら品質の良い製品をつくっても、それだけでは買ってもらえません。例えば同じ製品があったとして、Aはそのまま売っているだけ、Bは製品の良さを写真や説明で丁寧に伝えようとしている。どちらを欲しいと思うかは一目瞭然ですね。 
 
藤田 「こう思ってください」という気遣いを見せる事ができるのもデザインです。 
 
 そういう意味でも、デザインは本当に重要な部分ですね。経営者の考えがコストのみになってしまって、デザインに重きを置かなくなっては価値も何も正しく発信されません。シンボルマークやホームページ、パンフレットを見て「良いものをつくっているね」と山一木研のコンセプトを感じ取ってもらわなければ、世の中に無数にある製品、企業の中で埋もれてしまいますからね。 
 
藤田 林さんのようにデザインの価値を理解していただける方と仕事ができるというのは、僕の力以上のものを発揮させてもらえることでもあると思います。常にチャレンジしていこうという気持ちと、発信していこうという考えがあってこそ、デザインは効果を発揮できるものだと思います。 
 
 
 
2017年10月24日 山一木研にて 
 
 
 
 

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株式会社山一木研
 
創業当初より培ってきた木を用いた梱包材の製造・梱包の技術と知識をもとに2007年より木工製品事業を開始。「木でつくる山一ならではの自由な発想と繊細な技術」をコンセプトに地球環境保護にも取り組みながら製品開発を行う。代表する商品にピアノ補助ペダル「M–60」、地元天竜杉を活用したピアノ椅子「クラシイス」がある。
 
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