第9話 地域の木の家のスタンダードになる。
 
株式会社小林建設 代表取締役 小林 伸吾(埼玉県本庄市)

 名古屋で行われたセミナーの帰りに小林社長が浜松に立ち寄ってくださいました。小林社長はこうして時々、「ついでに寄るよ」とブルックスタジオにおみえになります。ご本人は気軽に寄っている感覚のようですが・・・、スタッフ一同、毎回「緊張」の中でのお出迎えです。今回は、こちらからの取材の申し込みにもかかわらず、「ついで」にお寄りいただきました。
 
No.1 進むべき道が見えた
 
藤田 今日はわざわざお越しいただきまして・・・ありがとうございます。
 
小林 わざわざじゃないよ。「ついで」だから。
 
藤田 そうでしたね(笑)。
 
小林 あ〜・・・でも、浜松って「のぞみ」が通過しちゃうから「ひかり」で来たし、「わざわざ」になるのかな?
 
藤田 ほんとにわざわざありがとうございます(笑)。さっそくですが、このたびは2017年にオープンしたモデルハウス「ギャラリーhinosumika」でグッドデザイン賞を受賞、おめでとうございます。
 
小林 どうも、ありがとうございます。
 
藤田 2007年「杉の家」、2013年「コバケンLaBO」に続いてこれで3度目のグッドデザイン賞の受賞ですね。小林建設さんのモデルハウスすべてが受賞。これは地域工務店の中でも他にはない快挙ですよ。名実ともに地域工務店ナンバーワンといえるのではないですか。
 
小林 いやいや、それはちょっと言い過ぎだよ(笑)。そんなに褒められると汗が出てきますよ。でもね、やっぱりその時代、時代で注目されていることに常にアンテナを張って、それをカタチにできたことが結果につながったんじゃないかな。小林建設として「地元の木を使う」っていうのは絶対に外せないけどね。
 
藤田 そうですね。そこがブレないから評価もされたんだと思います。それでは、いよいよ出会いからブランディング、そしてプロモーションのお話を詳しく伺いたいと思います。
 
小林 小林建設が解剖されていくって感じだなぁ(笑)。
  
藤田 出会いは1996年だから・・・もう21年前になりますね。
  
小林 十年一昔っていうけど、二昔ってことか。長い付き合いになっちゃったな。
  
藤田 なっちゃったって・・・(笑)。
  
小林 良い関係ですよね(笑)。二昔前か・・・こんなこというと言い訳みたいになるけど、僕にとって工務店っていうのは家業だから、その頃は当たり前に朝から晩まで仕事をして、経営の方向性とかブランディングなんて考える余裕はなかったんだよね。
  
藤田 家業ですか? 代々守り続けるってことは、ご苦労もあったんでしょうね。
  
小林 うーん、いろいろとありましたよ。でもそれが当たり前だから、苦ではなかったけどね。黙々と仕事に取り組んでいたある日、先代である父がOMソーラー※1の新聞広告を見て、僕に勧めてきたんです。
  
藤田 全国に発信した、新聞全15段広告ですね?
  
小林 そうそう、当時、藤田さんがデザインされたものです。それからOMソーラーの新聞広告やプロモーション・ツールを目にするようになって、自然エネルギーや、環境と共生するOMソーラーの家づくりに共感したわけです。それぞれのツールが、ひときわ引きつけるメッセージ性の強い垢抜けたもので、心に深くきざみこまれたって感じがしましたね。それと同時に、情報発信の重要性も感じて・・・。
  
藤田 心に深くきざみこまれた、ですか。じゃあ、OMソーラーを知る前は、特に情報発信されていなかったんですか?
 
小林 二昔以上前の話だからね。特にしていませんでしたね。だから、入会してからまずはOMソーラー協会が用意してくれたパンフレットやチラシを使うことから始めました。
 
藤田 チラシの効果はいかがでした?
 
小林 もちろん効果はありましたけど・・・。でもそこから数年して自分達の目指す方向性がハッキリとしてからですね、お客様へメッセージが正しく伝わっているな という実感があったのは。
 
藤田 なるほど。小林建設さんが現在も一貫して伝えていることは、地元の材と地域の人財を使って無垢の木の家を建てる「地域性という軸」ですよね。それが方向性ということでしょうか。
 
小林 そうですね。その「地域性」に目覚めたのは、1999年に埼玉県で初めて県産材100%のOMソーラーの家をつくったときですね。小林建設にとっての転機とも言えるのかもしれません。さらにその頃、無垢材を使用した木の家や、自然素材が注目され始めたことも大きかったと思います。「現し※2」の工法が当時は斬新で高級感もあったんじゃないかな。
 
藤田 それがOMソーラー協会さんが先導した、いわゆる「近山運動※3」ですね。でもそれって、元々昔の日本でやっていたことでしょう? それが、時代が流れて、全国的な木材の伐採期とも重なって国産材の良さに世間が気づき、山と町と人と資源を家づくりを通して、つなぎ、結ぶ運動として再登場したということですか?
 
小林 そうそう、まさに再登場。昔と比べて木材の乾燥の技術も進んだから、強くて良質な地域材を使った無垢の家を提供できるようになってきたんですよ。そして、土、紙、石などの自然素材も地元のものを使う。こういったネットワークが築けるのは地域に根付いた工務店だからこそなんですよね。
 
藤田 そこで地域工務店としての在り方に気づかれたわけですね。
 
小林 はい。本来、我々地域工務店はそう在るべきだったんでしょう。
 
藤田 どんな企業でも必ず転機はあるものですが、そのタイミングを逃さず確実に活かされて・・・。地域材の良さをを活かした手づくりの木の家を、地域に普及させるという小林建設さんのチャンスを逃さない実践力の影響は絶大でした。その頃から僕は、ただデザインの制作に携わるだけでは済まなくなっていきました。
 
小林 そう、僕もうすうす感じていましたよ。木材のことや気候風土のことまで見聞を広げて、熱心ですよね。それに藤田さんとは感性が近いんだと思うな。物の考え方や本質が合わないとこれだけ長い付き合いになれないから。
 
藤田 小林さんは常に物事を客観的に判断することを意識されているじゃないですか。「これで本当に効果がでるか?」と、制作物ひとつひとつにまっすぐ真剣に向き合ってくださるから、こちらもおのずと前向きになる。だから、うちのスタッフはみんないつも気を張って・・・「緊張」するんですよ。
 
小林 そんな! 緊張しないでくださいよ(笑)。
 
 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 

No.2 コミュニケーションを誘発させる
 
藤田 2003年にオープンしたモデルハウス「杉の家」がまさに小林建設さんならではの「地域性」をカタチにしたものですよね。
 
小林 そうですね。地元の杉の木をふんだんに使用して、無垢の木に囲まれた暮らしがいかに心地良いかを体感していただけるようにしました。そのモデルハウスのネーミングを「陽の栖」として、さらには藤田さんの提案で小林建設の家づくりのブランド・ネームとしたわけです。
 
藤田 家づくりの方向性が明確になって、お客様とのコミュニケーションの場であるモデルハウスもできました。小林建設さんの家づくりとお客様を結びつけるコミュニケーションの中心になるものが必要だと感じて、ネーミングとシンボルマーク、ロゴタイプをご提案させていただきました。
 
小林 ここから本格的に小林建設のブランディングが始まりましたよね。
 
藤田 はい、工務店のブランディングは、ゼロから考えるのではなくて、マイナスからでした。
 
小林 当時は、工務店にいい家がつくれるのか? とか、建物はつくれるけど、センスが悪いとか、つくっている人が怖そうとか、そういったマイナスイメージが一般的にありましたから。
 
藤田 そんなイメージから脱却して、小林建設さんの価値をわかりやすく伝えるには、単にモデルハウスの名前に使うだけではなく「陽の栖」をブランド・ネームにした方が良いんじゃないか? と感じたんです。
 
小林 そうでしたね。小林建設の家づくりのブランド・ネームとして展開していく際に、あのシンボルマークができたわけですよね。
 
藤田 そうです。「陽の栖」には太陽などの自然と融合した住空間という意味を込めて、コンセプトは、「地域と家族のスタンダードになる家をつくり、守る。」ブランド・スローガンは「正直につくる木の家」。それで今のシンボルマークになったわけですが・・・。
 
小林 提案を見たときはびっくりしました。これが工務店のシンボルマークかって。
 
藤田 このシンボルマークは小林さんだからこそ使いこなせているんですよ。下手すると単なるイラストで終わってしまうと思います。
 
小林 僕だから使いこなせている、というと?
 
藤田 小林さんは、ブランドを成立させるために、ネーミングやシンボルなどの核になるものをつくった後も、正しいメッセージを一貫性を持って継続して伝えています。常にその発想で実行されているから「伝わる」のです。
 
小林 「伝える」ではなく、「伝わる」がコミュニケーションだということですね。
 
藤田 その通りです。最適なコミュニケーションを築けたから、2007年に「杉の家」が地域工務店で初めてグッドデザイン賞を受賞されたんだと思います。しかもベスト100に入られて。いやぁ〜、あのときは感激しましたね。
 
小林 藤田さん、自分のことみたいに喜んでくれましたね。
 
藤田 もちろんですよ! 出来上がった「モノ」だけが評価されたんじゃなくて、木材加工業者とのネットワークや、地元の杉の良さを伝え、地場産業の発展に貢献しているという・・・まさに「陽の栖」のコンセプトが評価されたわけですから。
 
小林 時代にピッタリ当てはまったことも大きいでしょうね。
 
藤田 あれから周りからの見る目は変わりましたか?
 
小林 どうでしょうか。きっと変わった部分もあると思いますが、それよりも自分達の気持ちの方に大きな変化がありました。「陽の栖」ができたときからブランドを意識していたのはもちろんですけど、グッドデザイン賞を受賞して注目をされる様になったことで、小林建設のイメージをしっかりと統一していかなければならないなと、より強く感じましたね。
 
藤田 ブランディングの中で最も重要なのはそこです。小林建設さんはスタッフから職人の方まですべてが、現場の整理整頓、現場シートや看板の魅せ方などありとあらゆる点で、常に「小林建設がお客様からどういう見られ方をしているか」という目線でブランドを意識したプロモーションをされているから、伝わる力が重なり大きくなるのだと思います。
 
小林 僕としては、藤田さんから常に客観的な意見を聞けているのも良いんだと思っています。
 
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 

No.3 営業マン無しで行うプロモーション
 
藤田 今回受賞した「ギャラリーhinosumika」のパンフレットを制作させていただきましたが、モデルハウスでありながら、「ただいま」と帰ってきたくなるような安らぎを感じる、落ちついた空間ですよね。
 
小林 おかげさまで、すでにとてもたくさんのお客様にご来場していただいて。今回のモデルハウスは「住み心地の良さ」を追求したゼロエネルギー準備住宅なんですよ。
 
藤田 準備住宅? あまり耳にしないですね。
 
小林 そうでしょう? でもZEH※4はよく聞くでしょ。
 
(しばらくZEHの話で盛り上がる2人…)
 
小林 ・・・この話まだ続けてもいいの?
 
藤田 いいんです(笑)! でもこのまま続けていたら夜中になってしまいますね?
 
小林 じゃあ、元に戻しましょう(笑)。なんだかんだいっても、こうやって藤田さんは僕の専門分野のことを良く理解しようとしてくれるでしょう? だからプロモーション・ツールをお願いしても、スムーズなんだよね。ギャラリーhinosumikaのパンフレットをお願いしたときも、各モデルハウスのポジショニングやコンセプトを的確にまとめていただけたし。
 
 
藤田 デザイナーは目的や伝えるべきことを理解していなければツールには落とし込めませんからね。ただ、お客様の目線で考えること。「これくらいはわかるだろう」という考えに陥ってしまわないように気をつけています。
 
小林 「これくらいはわかるだろう」ねぇ、それが一番怖いことだね。
 
藤田 僕はこうして小林さんとお話をさせていただいているから小林建設さんのことを理解していますけど、お客様はモデルハウスや見学会が「小林建設のつくる家」を理解する機会になるわけですよね?
 
 小林 そうですね。お客様から見て、モデルハウスは小林建設の考える「理想に近い家」そして完成見学会は、実際に注文された「お客様の家」つまり 「その家族の最適なカタチ」になりますね。
 
藤田 目指しているところと現実の両方を見て理解していただくわけですね。
 
小林 モデルハウスは素材も見せ方も理想を目指しているので、実際に全て取り入れるのは難しくても「こんなやり方もあるんだ」と参考にしていただけることも多いと思います。でも我々としてはモデルハウスを見ていただくだけではなく、できれば実際のお施主様の建物を見て、より現実的になっていただきたいと考えています。
 
藤田 納得していただくには時間がかかりますよね。納得していただけるコミュニケーション・ツールがあれば営業マンはいらないと、以前におっしゃっていましたが。
 
 
小林 ええ、当社には営業マンはいません。見学会場に足を運んでくださるお客様には、誠心誠意「小林建設のつくる家」についてご説明します。その上でじっくり読み込める、わかりやすいパンフレットを用意し、興味を持っていただいた方を勉強会にお誘いする。時間をかけて、良さを理解していただき、お客様のご希望にも寄り添う。そういうことこそ何より大切にしたいと考えているんです。
 
藤田 家づくりを始めるときの知識や理解は、お客様によって違いますから、アプローチできる角度や幅が増えるよう、一緒にいろいろなツールを制作させていただきましたね。小林さんは「陽の栖」のプロモーション全体をしっかりとコントロールされている。そこが素晴らしいと思います。
 
小林 でもね、それこそ先程の話に戻りますが、「これくらいはわかるだろう」の気持ちを捨てて伝わる仕組みを考えないと・・・。家づくりにおいても、良いものをつくっているだけでは、お客様に選んでいただけません。だからモデルハウスや見学会で体感していただくことはとても大事なんです。
 
 
藤田 実際に体感していただける場があって、その上で「納得」していただけるようなコミュニケーション・ツールをしっかりと活用されているから、営業マンはいらないんですね。
 
小林 おっしゃる通り。
 
藤田 そこが小林さんのこだわりですか?
 
小林 そう、だから営業マンはいなくても、ここ数年で、設計も性能も施工もしっかりとやってくれる工務店だと明確に伝わっているな、という実感があります。
 
藤田 それは、小林建設さんがお客様の目線で「良いと思える会社か」ということを考え、伝え続けてきたからです。ブランドをつくって終わりではなくて、常に上を目指すこと、伝えること、良いお客様に出会うことを充分に考え実行した結果、「陽の栖」というブランドも確立されたんだと思います。
 
小林 きっとこれからも、お客様の意識は変化していくのでしょう。その中で、地域工務店の小林建設として在るべき姿を常に考えていかなければなりません。
 
 
藤田 そう言えば・・・話は飛びますけど、何年か前に、東京駅で「陽の栖」のトートバッグを持っている小学生を見かけたんです。塾の帰りかな? 本や参考書がぎっしり詰まって・・・。思いがけないところで目にしたので、一瞬ハッとして、そのあと可愛らしいなあと何だか嬉しくなったのを思い出しました。
 
小林 へぇ! そうですか。そういうふうに使っていただけるって幸せですね。あの素材、藤田さんが言う通り、不織布にしなくて良かったなぁ。しっかりした素材だったから簡単に捨てられずに、ショッピングバッグにしたりして永く使ってくださる方もいます。そういうのって嬉しいですね。
 
藤田 そうですね。あのトートバッグはお客様が家づくりの資料を持ち帰るためにつくったものです。資料の冊数も多くて重たくなるだろうと、しっかりした帆布でつくったんですよね。プロモーション・ツールはお客様への気遣いが大事です。小林建設さんのそういう気遣いがあってこそのブランドですよ。ですから、今日来てくださった「ついで」も僕にとっては素敵な気遣いなんです。
 
小林 そうか・・・ではまた近々、「ついで」に寄りますね。
 
藤田 お待ちしています!
 
 
2017年11月7日ブルックスタジオにて
 
 
 
 

ブルックスタジオ制作実例
>小林建設
 

株式会社小林建設
 
埼玉県本庄市に3代続く地域工務店として、地元の財を活かし、地域に根ざす家づくりをしている。「正直につくる木の家」をブランドスローガンに、OMソーラーやパッシブデザインを取り入れた、心地良く美しい木の家をデザインし、ただ1つのかけがえのない「栖」を提供。 2007年『杉の家』、2013年『コバケンLaBO』、 2017年『ギャラリーhinosumika』でグッドデザイン賞受賞。
 
▶︎小林建設ホームページ


※1)OMソーラー協会:現OMソーラー株式会社/「環境と共生する地域建設の創造」を理念に、もともと自然が持っている力を利用して熱と空気をデザインする、OMソーラーシステムを開発・販売する会社。ブルックスタジオは1990年〜2015年までキャンペーン、プロモーションに携わる。
※2)「現し(あらわし)」工法:日本の伝統的な木造工法で、普通は仕上げ材によって隠してしまう真壁や梁の木材をそのまま露出させた仕上げとする工法。
※3)近山運動:近くの山の木で家をつくる運動
※4)ZEH:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、住まいの断熱性などを上げてエネルギーのムダを省いた「省エネ」と、太陽光発電などによる「創エネ」を組み合わせて、一年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住宅。